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──と、思っていたのだが。 「パパー! おはよー!」 「パパ、きょうね、たいがね、にんじんたべられるようになったよ」 「ねぇ! パパ、みて! パパかいたの! じょーずにかけた?」 パパ、パパ、パパ⋯⋯。 言葉を覚えていく度に色んなことが出来たとその都度報告してくる。そのことだけを切り取れば、日々の成長を実感し、微笑ましいとは一応思うが、その度について回るのは俊我のことを『パパ』と呼んでくることだ。 血の繋がった親子なのだからそう呼ぶのは普通だろう。そう世間一般ではそう思われるが、俊我の場合はその一般論に賛成できない立場だ。 「大河様、パパがいない時もずっとパパのことを話されているんですよ。すごくパパのことが大好きですよね」 「⋯⋯上山。お前、わざと言っているのか」 「はてさて何のことやら」 素知らぬ顔をする上山のことを思いきり睨みつけた。 「パパー! ママとけんかしちゃ、だめ!」 わっと、背伸びをした上にいっぱいに両手を上げて止めようとする大河に、「ケンカじゃない」と目線を合わせた。 「大河。ずっと俺のことをパパと呼んでいるが、俺はお前のパパじゃない」 「え⋯⋯ちがうの⋯⋯?」 服をぎゅっと掴んで、瞳を潤ませる。 しまった。さすがにはっきりと言いすぎたか。 「いや⋯⋯あの、な。大河の本当のパパとママは、その⋯⋯ちょっと危ないところにいるんだ。そんなところに一緒にいられないからって、俺に預けているんだ」 「⋯⋯あぶないって、どんなの?」 その場しのぎのつもりで言った嘘を突っつかれてしまった。 何を言えば、大河は納得してもらえるだろうか。

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