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それは本心であり、勝手でも後ろめたい気持ちにもなるからだ。 「うん⋯⋯わかった」 言葉を喋れるようになってから今の今まで俊我のことを「パパ」と呼んできたのに、急に「俊我」と呼ぶことに納得してない様子だった。 最初からそう呼ばせておけば良かった。 「んー⋯⋯と、しぅ、が、たいがのほんとーのパパとママのえをかきたい! おしゃしん、あるー?」 「写真⋯⋯」 当然のごとく、俊我の写真は見せられないし、そもそも撮られるのが苦手でないに等しい。 それ以前にあのアニメに登場するキャラ画像でも見せてやればいいか。 と、上山も思ったようで、置いてあったタブレットで検索しようとしたのを「待て」と手で制した。 「⋯⋯パパの写真はないが、ママの写真ならある」 そう言って見せたのは、保存した例のあの写真だった。 「これ、ママ?」 「そうだ」 「こっちは?」 疲れた顔を滲ませつつも、優しげな目で見つめる愛賀の隣にいる赤ん坊を指差した。 「産まれた時のお前だ」 「えー? たいがなのー? ちっちゃいね!」 今でもまだ小さく思えるが、産まれた直後より大きくなったなと愛おしげに撫でていた。 「⋯⋯このママはお前のことを大事に想っていてな。難産⋯⋯なかなか出ようとしなかったのは、お前もママのお腹の中から出たくないと思っていたのかもしれないな」 あの母親から出なければ、こうして離れることはなかった。 そんな非現実的で、叶うはずがないことを僅かでも思ってしまう。 「ママに、あいたいな」 「⋯⋯そうだな」 「ママにあったら、じょーずにかけたえをいっぱいみせる! いっぱいほめてもらうー!」 そう意気込んだ大河は、リビングの端辺りに置かれている大河用のおもちゃなどの置き場にしている棚からお絵描き帳とクレヨンを取ってくると、今いた場所に座り込んで描き始めた。

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