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それが余計に腹立たしい。 今すぐにでもぶん殴ってやりたいと、握りしめた拳が震えているのを感じていたが、一瞬冷静になった。 こんなやつに構っているよりも一刻も早く大河の元へ行かなければ。 踵を返し、廊下に並んでいる扉の一つを開けた。 「大河⋯⋯」 明かりが付いていない真っ暗な部屋。 廊下の電気の光がその部屋に差し込む。 それがちょうどこちらに背を向けていた小さな身体を照らしていた。 俊我がその名を呼んだ時、お気に入りのハニワのぬいぐるみをぎゅうと抱きしめ、声を押し殺して泣いていた様子の大河がぴくりと反応した。 が、こちらにすぐに振り向こうとしない。 「大河、遅くなって悪い。一緒に風呂に入るぞ」 そう呼びかけるか、少し反応を見せるだけで振り向くことがなかった。 あんなやつにこんな真っ暗な部屋に無理やりにでも一人にさせたのだ。いくら俊我だと分かっていても、ショックで振り向く気力がないのかもしれない。 電気を付け、大河のすぐ後ろに膝を着いた。 「大河。お前が嫌じゃなければ、ぎゅっとしてもいいか?」 公園に行った先で泣かせてしまった時のように慰めてあげたい。 そう訊いてからしばらく経ったぐらいだろうか、突然勢いよく身体ごと振り向いたかと思えば、そのまま俊我に抱きついてきたのだ。 突然のことに驚きながらも、涙を流す小さな身体を抱きしめた。 「悪かった。一人にさせて本当に悪かった」 頭を撫でて、何度も「悪かった」と謝った。 「あんなやつに一人で風呂に入れって言われたみたいだな。大河は俺と一緒に入るのが好きだもんな。だから俺が帰ってくるまで待っていたんだよな。だが、帰ってくるのが遅かったせいで、こんな暗い部屋に一人にさせてしまったな⋯⋯」 ただ存在を知らしめるだけでいいはずなのに、大河にまで被害が及ぶとは思わなかった。 それもこれも、あの女が嫌っているオメガとの間に産まれた子どもだからか。 そうであっても、子どもは何にも悪いことはしてない。

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