154 / 177

154.

「あんなやつに泣くなとでも言われたか? 今目の前にいるのは俺だけだ。だから、思いきり泣いてもいいからな」 そんな勝手なる何の罪もない大河が、静かに泣き続けることに疑問を抱きつつも、きっとそれも今の世話係に余計な一言でも言われて、そのような癖をついてしまったからなのだろうと自己解釈し、そう言い聞かせる。 だが、不意に顔を上げた大河を見た時、そうではない可能性があるように感じられた。 それは、自分でもどうしたらいいのか分からないと困った、涙ぐんでいる顔をしていたからだ。 たしかに泣いていることは分かる。が、小さな口から発せられるのはかすれた、おおよそ言葉とは言えぬものだった。 「大河、その声どうしたんだ。もしかして、枯れるほど泣いたのか? それは可哀想なことをしてしまったな」 そうだと、そうであって欲しいという願望からだ。 幸せを奪ってしまったオメガのようなことを、せめて大河には悲しませないようにしようと思っていたのに。 俺がいるだけで悲しませてしまう。 「大河、悪かったな⋯⋯」 謝っても謝っても赦されるはずがない。それでも、口癖のように謝り続けた。 慰めながらそうしてどのぐらいの時間が経っただろうか。 不意に大河を見やると、泣き疲れたのかいつの間にか寝に入っていた。 泣き腫らした目元を指先で辿っていたのも束の間、大河を抱き上げ、一緒にベッドに潜り込んだ。 布団をかけてあげていると、片手でぬいぐるみを抱えつつも、もう片手で俊我の袖辺りを掴んでいたのだ。 「⋯⋯俺は、離れるつもりはないぞ」 身体を上下にゆっくりと動かす大河の頭を撫でた。 その日は一睡することもなく、ただ目が覚めるまでずっと撫で続けたのであった。

ともだちにシェアしよう!