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十畳程度の広さに、座卓に座椅子が向かい合わせに置かれているだけの至ってシンプルな和室だった。 その俊我らが入ってきた出入り口の反対の座椅子に、久方ぶりの相手が座っていた。 「あら、言った時間よりも早くに来たのね。待ち合わせは早くに来るタイプなのね」 相変わらずの真っ赤な唇を見せつけて笑う雅に、途端に大河がまた俊我の足にしがみついていた。 それを宥めていると、「ふぅん、その子どもが」とそちらに視線を向けた。 まるで、品定めするかのような目に大河が首を横に振った。 それは帰りたいという合図だ。 「⋯⋯悪いが、帰らせてもらう」 「来たばっかで何言ってんのよ。だったら、手短に話すわ」 「そうしてくれ」 「あたしとあんたらで親子役を演じてもらうわよ」 大河を抱き上げていると、不意にそんなことを言ってきた。 「は⋯⋯? 急に何を言って⋯⋯」 「あたしらの目的は何だったか、忘れていないでしょうね」 目的──それは、今は婚姻関係となった御月堂の面汚しのため、そして、小野河の会社の立て直しのために華園院から資金援助をするために、既成事実を作り上げるため、子どもを作らせること。 「⋯⋯忘れるわけがないだろう」 今となっては何もかも手遅れで、どうでもいいことだった。 「だが、どうやるつもりなんだ」 「そんなの、街中を闊歩していればいいエサだと思って、パパラッチ辺りがこぞってスキャンダルを起こしてくれるわ。だから今からでもしようと思っていたところだけど、早く帰りたいのよね?」 今は雅からそっぽ向いて、小さく震わす大河を宥めながら「ああ」と返事をした。 「ああ、そう。乗り気じゃないなら仕方ないけど、こういうのはさっさとやりたいから、その子どもにきちんと言い聞かせておいてよね」 興が逸れたと言わんばかりにその場から立ち去る雅に目をくれるわけもなく、大河に話しかけた。 「⋯⋯大河。面倒事に巻き込んで本当に悪いな。あの女と何回か会うことになると思うが、その間も俺が極力あの女から遠ざける。それと、さっきみたいに首を振ってくれ。すぐに家に帰るからな」 あの女がいなくなったことに安心しているらしい大河の震えが止まった身体をより一層抱きしめた。 「⋯⋯それから、俺のことを恨んで憎んでくれ」

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