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163.

先に大河を登らせ、その間も落ちないようにと細心の注意を払いつつも、階段先の頂上に立った。 子ども用遊具とはいえ、公園の中で一番高さがあるため、公園全体が見渡せた。 いつも大河が遊んでいる砂場に、ベンチが数箇所ぽつぽつとあり、先ほど遊んでいたブランコ付近には遊びに来ていた親子連れの楽しそうな声が風に乗って聞こえてくる。 公園を囲む木々の先には、高いビルが建ち並び、その木々の境界でこんなにも景色が違うのかと改めて思った。 いつもそんな都会の中に住んでいるのに。 関心して眺めていると、袖を引っ張られるのを感じ、視線を下げると、大河がすべり台の下を指差していた。 その指の先を辿ると、なんと雅が携帯端末をこちらに向けているのだ。 「何をしているんだ」 「何って、遊んでいるところを撮ろうと思っているのだけど」 「お前がそんな気を回すなんてな」 「これもそうしている風に見せているだけだわ」 面白いものを見つけたと顔にそう書いている雅が不意にくいと顎を上げた。 なんだと、その先に顔を向けると、設置されていたベンチだった。 俊我らと変わらなさそうな若い男性が携帯端末を片手に弄っているという何の変哲もない姿。 だが、横に置かれていた一眼レフのレンズがこちらに向き、恐らくシャッターボタンらしい位置に触れる仕草を見て、そういうことかと納得した。 再び向き直り、雅に小さく頷いた後、大河に「一緒に滑るぞ」と大河を抱えて、滑った。 「あらぁ、いい滑りっぷりね。パパと一緒に滑れて良かったわねぇ」 滑り終わった先でもやたら撮りまくり、わざとらしい口調で、さらに雅の口から「パパ」と呼ばれた時は、全身鳥肌が立った。 まだ大河に呼ばれていた時の方がいい。断然にいい。

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