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「何震えているのよ」
「いや、まだ寒いからな。そのせいだろう」
「そういう理由じゃなさそうだけど、そういうことにしてあげるわ」
胡乱な目で見てくる雅の視線から逃れるように、「大河、もう一回滑るか」と大河を促し、再び滑りに行った。
それから何度か滑っていくうちに飽きたようだ。滑り終わった大河は俊我から離れると、今度は砂場の方へ走り出した。
黙々と山作りをしている様子の大河を横目に、いつものベンチに座ると、後から付いてきた雅は気持ち距離を取って、座った。
「まだあのパパラッチいるみたいね」
「まあ、載せるのにちょうどいい写真でも狙っているんだろう」
「この関係性がなんとも煩わしいから、さっさと週刊誌でも何でも報道されて欲しいものだわ」
「珍しく同感だ」
鼻で嗤い、それからすぐに話題が尽きてしまい、沈黙が下りる中、せっせと山を作り上げている大河をぼんやりと見つめていた。
こんな一時でも嫌に思う偽の夫婦という関係性を終わらせたら、自分はその後、何をしたらいいのだろうか。
きっと大河とはこれから先も一緒にいられることもなく、その世話をするささやかな幸せも離れていき、ただ生きるだけの毎日を暮らすのだろう。
たった一人で。
そんな結末を迎えることになるのは、全て自分の愚かな行ないのせいだ。だから、誰かを責めるという滑稽なことはしない。しないが、そんな自分が生きている意味があるのだろうか。
何を目標に生きていけばいいんだ。
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