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「なんで、なんなの。勝手に取って行ったかと思えば、自分一人じゃ育てられなくなって、今さら僕に育てろっていうの? あまりにも勝手──」
「ちょうどいい機会だと思ってな。紹介したい相手がいるんだ」
そんなことを言われても仕方ない。
元々、あの女としていたことを話してもこの目の前のオメガを傷つけるだけであって、だったらいっそのこと身勝手な憎悪を抱く最低なアルファだと思われてもいい。
そう思っている時、背後から憎たらしくも俊我のことを呼ぶ声が聞こえ、条件反射で舌打ちしかけたのを止めた。
「も〜! 一緒に待っててくれても良かったじゃない!」
「俺があんな所にいたいと思うか?」
「別にいいんじゃないの。荷物持ちよ荷物持ち」
大河が面白くないだろうと反論しかけたが、埒が明かないため、ぐっと堪え、「そんなことより。お前にちょうど紹介したい奴と偶然会ったんだ」とさもこの女と付き合っている風なことを装った。
「紹介したい奴⋯⋯?」と怪訝そうな顔をする雅を尻目に、再び愛賀を見ると瞠った。
この世の終わりだという絶望しきった顔をしているのだ。
何故だ。何故そんな顔をしている。
それじゃあ雅と知り合いで、しかも大河と同じような目に遭ったようじゃないか。
「あら。最後まで仕事を全うせず、挙げ句、逃げたあのオメガじゃないの」
仕事? 何のことだ。
それよりも。
「知り合いだったのか」
「知り合いも何も、戸籍上の夫が代理出産を頼んでいたからね。この子どもと一緒でしょ?」
雅と目が合った時、試すように嘲笑しながらそんな嘘を言ってくる。
代理出産⋯⋯。かつて愛賀がしてみたいと言っていたものだ。ありつけたようで良かった⋯⋯と今の状況で言いたくない。
大河のことは違うと、喉元まで出かかった叫びを大河と繋いだ手とは反対の手に力を込めることでどうにか抑えた。
面白がるような顔でもしていたのかと思うような、雅が堪えきれないといったように嫌らしい笑みをしてくる。
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