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第7話
「どれがいいですかね?」
「泉の好きなやつでいいんじゃないのか?」
「せっかく二人で来たんです。葛城さんも一緒に考えてください。」
「そ、そんなこといわれても…。」
まさかこんな形で二人きりになるとは思わなかった樵は内心、大慌てであった。
普段指輪を買うことがないため、何がいいのかも分からなかった樵は一生懸命にショーケースの中身の指輪を睨んでいた。
うんうんと悩みながら見ていると一組、目にとまる指輪があった。
その指輪には二つの小さな宝石が身を寄せ合うようにして控えめに輝いていた。
それを見つめているとコンシェルジュが話しかけてきた。
「そちらの指輪はパートナーの方とご一緒に購入されることが多い、大変人気な商品となっております。使われているジュエリーは、オーダーメイドでお二人の誕生石に変えてお作りすることも出来ます。」
それを聞いていたのか、後ろから近づいてきた凛太郎が話しかけてくる。
「じゃあ、それオーダーメイドでお願いします。葛城さん、これにしますね。」
「え、あ、あぁ…。じ、じゃあ俺そっちで待ってるからゆっくり見てくれ。」
そう言って慌てて樵はその場を離れた。
それを見届けた凛太郎は微かに笑みを浮かべ、そのままコンシェルジュにオーダーメイドの依頼をした。
「じゃあ、これを一組お願いします。」
「かしこまりました。それではここにお二人のお誕生日のご記入をお願いいたします。」
樵は遠くから凛太郎を見つめていた。
彼の目に自分はどう写っているのか。
もし、自分は都合の良い性欲処理に使われていたら?
それとも彼にとってはただのからかいなのだろうか?
樵の頭の中に疑問がグルグルと回り続ける。
いつの間にそこにいたのか、凛太郎が樵の肩にポンと手のひらをおく。
「葛城さん、終わりました。」
「うわぁっ!わ、わかった。じゃあ行こうか。」
外に出ると冷たい風が頬を撫でる。
時刻は21時半。
「寒いなぁ。11月になると夜風が一段と冷たくなるなぁ。」
「そうですね。今年もあと1ヶ月とちょっとですね。」
「はやいなぁ。」
そう他愛のない話をして二人で駅に向かう。
21時半とは言えどまだ車通りも人通りも多く賑わっていた。
横断歩道で信号を待っていると、横から自転車に乗った人が勢いよく近づいてきた。
「葛城さんっ!」
「えっ。」
急に抱き寄せられて驚いた葛城は、一気に心臓の音が大きくなったと同時に、顔に熱が上がる。
目の前に凛太郎の胸元が当たり、香水の匂いがより色濃く感じられる。
「危ないな、大丈夫ですか葛城さ…っ!」
凛太郎が視線を樵に移すと自分の胸元で顔を赤らめ、涙目で凛太郎の目線から逃れようと必死にそっぽを向いていた。
「ぇ、ぁ…大丈夫…。」
「そうですか、よかった…。あと、葛城さん。俺ので申し訳ないんですけど、このマスクしてください。」
鞄から使い捨てマスクを取り出し樵に渡すと凛太郎はそっぽを向いてしまった。
もしかして口が臭かったのか?と少しショックを受けていた樵に対して凛太郎は振り返っていった。
「そんな色っぽい顔されたら、我慢できなくなってしまうので。」
「んなっ!何を言ってるんだよ!俺次の電車だから…また明日!」
樵は早足で駅に向かったが、マスクで空気が籠っているせいなのか、しばらく顔の熱は下がりそうになかった。
「はぁ、反則でしょ…。」
路地裏でしゃがみこんだ凛太郎は、ほんのり熱くなった顔を手で隠してポツリと呟いた。
その時、凛太郎のスマホに着信が入る。
「はい、泉です。あぁ、父さん。はい、え…お見合いですか。」
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