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其の参・鬼、西瓜を食す。(6)
牛車の近くで、しわがれた声が聞こえる。
男はいまだ猫又の頭を撫で、宥めている。
生きた心地がしない中、主の声はようやく小さくなっていく。
猫又が威嚇を止めた頃には、あたりにはすっかり静寂が戻っていた。
「さあ、もう大丈夫ですよ」
「ありがとうございました。助かりました。やはり貴方様は陰陽道を司る方でいらっしゃったのですね」
やがて、蒼の言葉を合図に、伊助は引き結んでいた唇の戒めを解き、感謝の言葉を口にすると、蒼に向かって深くお辞儀をした。
「しかし、ここで帰れば、おそらくはまた『あれ』が襲ってくるでしょう。さて、どうしたものか……」
「にゃあ~」
猫又はひと鳴きすると、男の裾を噛み、グイグイと引っ張った。
「そうだね、心。そうするとしようか」
男は薄い唇に笑みを浮かべ、ゆっくりと頷いて見せた。
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