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書いてくれるなら
「先生!お願いですから書いてください!少しだけでも入れてくれれば良いんです!」
「無理だ、書けん。他のやつに頼んだら良いだろうが。」
必死に頼み込む編集者、「天野」は不機嫌に珈琲をすする小説家を見上げて負けじと続けた。
「殆ど恋愛要素を入れないあの坂之上先生が前回入れた恋愛描写がファンの間で凄く人気なんですっ!これを機に恋愛を主にした小説を出せば更に人気が上がります!このチャンスを逃すのは惜しい!」
必死にアピールする天野に対して坂之上は深いため息をついた。テーブルにマグカップをコトリと置く。
「だから無理だと言っているだろう。そもそも、前回入れた描写は恋愛として入れたものじゃない。あんなの、ただ読者が勝手に恋愛と解釈しただけじゃないか。それに私は普通の恋愛を書くのは苦手なんだ。」
「普通の、と言うのは?」
坂之上の言葉に疑問をもった天野は聞き返す。坂之上はそっぽを向きながらボソリと呟いた。
「だから、男女の恋愛だ…。私には異性を好きになる気持ちなど分からん。それに、学生以来誰かを好きになったこともない。そんな奴の書く恋愛小説などつまらないに決まっているだろう。」
寂しそうな眼差しを虚空に向ける坂之上に天野は言った。
「じゃあ、僕を好きになってください!貴方に振り向いてもらえる様に、これから毎日貴方に告白をします!普通の恋愛じゃなくても、僕は先生の作品が読みたいんです!」
「はぁ?」
突然の発言に思わず気の抜けた声が出る坂之上の両手を握り、跪いてしっかり目を見て言う。
「坂之上さん、僕は貴方が好きです。」
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