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第11話 空を見ることが好きだった
熊田先輩と会ったのは、大学に入学してしばらく経った頃だ
高校3年の夏休みに虎狛から離れようと決心したとある出来事の後
できるだけ遠くに行こうと受験した大学に合格して無気力に過ごしていた
授業にでてバイトして家に帰るの繰り返し
特にこれと言ってやりたいこともなくて
サークルにも参加していなかった
その日もいつも通り過ごしていたんだが
たまたま、本当になんとなくバイトの帰りに遠回りしてふらふらと家の近くの公園に行った
なにやらイベントが行われているらしく
公園の真ん中の開けた場所で人が集まっていた
そういえば、公園の入り口に何か看板みたいなものがあったし、子どもとその親らしい人がいるので地域の催しなのかもしれない
少し気になって声が聞こえるくらいの距離にあるベンチに座って見て行くことにした
主催者側らしい男性がライトを持って夜空を指した
「夏の大三角ってのがあってだなー。確か、あ、あったあった。あれだ。今ライトで照らした方角に明るい星が見えるだろー?こことこことここを結ぶと三角形になるんだ。で、えーっと、星座の名前がーーあれ、なんだったっけ。」
ど忘れしてしまった様子の男性が頭を抱えた
香澄先生しっかり〜!と子どもたちから言われている
「こと座のベガ、わし座のアルタイル、はくちょう座のデネブ、だろ。お前が忘れてどうすんだ。」
隣で望遠鏡をセッティングしていたもう1人の男性が助け舟をだしたようだ
「あーそうそう!それだ!さすが勇ナイスフォロー!」
「はぁ、香澄が説明役やりたいって言ったんだからしっかりしろよ」
香澄先生頑張ってーー!と今度は子どもたちから応援されてライトを持った男性がおおー!とやる気満々で返事している
「星、かぁ。そういえば、小さい頃よく縁側で見てたなぁ」
まだ小学生の頃、図書室にある星座の図鑑にハマって、誕生日に望遠鏡をせびったんだったか
その望遠鏡をもってうちの縁側からよく夜空の観察をしていた
もちろん、虎狛も一緒にいた
幼馴染で親も仲が良く、どちらかの家でお泊まりをすることも多かった
その頃はお泊まり会の度に2人で望遠鏡を順番にのぞいて図鑑に書いてある星座を探したりしていた
「懐かしい…」
今はもうどこにしまったのかも忘れてしまったけど
そんなことを考えながらぼーっと空を見上げていたら、不意に声をかけられた
「ねぇよかったら君も望遠鏡覗いてみない?」
「え…いや、俺は、別に」
さっきまで望遠鏡のセッティングをしていた男の人がいつのまにか目の前に来ていた
「さっきからちらちら見てたから興味あるのかと思ったんだけど」
「はぁ、まぁ…」
「じゃ!せっかくだし見ていきなよ」
そう言って手を引かれて輪の中へ連れて行かれた
熊田先輩との初の接触はこんな感じだった
「おーい!勇ー!望遠鏡次のところに向けてくれー。ってあれ、そいつだれだ?」
「さっきから、そこのベンチでこっち見てた子。もしかしたら興味あるのかなって思って誘ってみた」
誘って、というか、ほぼ無理やり連れてこられましたけどね
と心の中でひとりごちる
「おお!お前も天体観測に興味あるのか!」
「いや、えっと」
「じゃあせっかくだし参加してくといい!」
「急に参加とか迷惑じゃないですか?」
「そんなこと気にしなくていいぜー。このイベントはたくさんの人に天体観測に興味を持ってもらおうっていうもんだしな!」
そういいニカッと笑って子ども達の方へ戻って行く
元気だなぁ
「そういうこと、だから気にせず見てってな」
「は、はい」
そう言って望遠鏡の前まで連れてこられて覗いてみ?と催促された
レンズを除くと夏の大三角の一等星達が綺麗に映っている
「綺麗…」
「ふっ…やっぱり好きなんだ。楽しそうな顔してる」
呟いたのを聞いていたようで悪戯っぽく笑われた
なんだか、少し似ている気がする
初めて虎狛と一緒に望遠鏡を覗いた時
『彗ちゃんはやっぱり星が好きなんだね!すっごく楽しそう!』
とか言われたような
「…楽しいです。
久しぶりに見れてよかった。
ありがとうございます」
「おう。それは何より。
ところでさ、そんなに歳はなれてないと思うんだけど、ここら辺に住んでるってことはもしかして学生だったりする?」
「はい。雪代 大学の一回生、です。」
「お、じゃあ、俺たちの後輩になるわけだ。
そういや、自己紹介してなかったな。俺は熊田勇、2回生だ。それで、今子どもたちに囲まれてるあれは、馬渕香澄、同じく2回生。」
そう言って地面に2人分の名前を書いてくれた
「先輩、だったんですね。」
「まさかのな。で?君の名前は?」
「俺は猫田です。猫田彗っていいます。」
2人の名前の下に自分の名前を書く
「へー彗星の彗って書くんだ。綺麗でいい名前だな。」
「あ、ありがとうございます」
なんか、恥ずかしいな…
名前褒められたのなんて随分と久しぶりだ
『彗ちゃんの名前、好きだなぁ。流れ星みたいにこうキラキラーってしてる。あと、いつ流れるかわからないところとかちょっと似てる気がする』
気まぐれで悪かったな
なんで記憶の中の虎狛に悪態をつく
「でさ。ここで会ったのも何かの縁だと思うわけなんだが」
「はぁ」
「よければ、うちのサークルに入らないか?
見ての通り天体観測サークルっていたやつでまだ立ち上げたばっかりなんだよ
俺と香澄とあともう1人猫田と同じ学年のやつがいて、人数少ないから他のサークルとか部活みたいになんかやるぞーって感じでもないし、それぞれ好きなことしてるだから気軽に参加できると思うんだけど」
望遠鏡とかも一応あるし好きに使ってくれていいからよければどう?と言われる
「あ、えっと、考えときます」
すぐに入るとは言えなかった。
この人の雰囲気が少し虎狛に似ているから話せていただけで、あまり人付き合いが得意ではないのだ…
少ないとはいえ、子ども達と同じテンションではしゃげる人と同学年の全く知らない人とうまくやっていける自信がない
「そっか。ま、気が向いたらサークル室においで。いつでも大歓迎だから
そうだ、連絡先交換しとこうか。別にサークルに参加しなくても大学で困ったこととかあれば聞いてくれていいからな」
そう言ってスマホを取り出した熊田先輩と連絡先を交換した
ピコンと通知が一件
開くとサークルメンバー募集の張り紙の写真だった
「これ、は?」
「そこの右下にサークル室の場所書いてあるから、もし来たくなったらそれ見て来れるようにってのと、普通に勧誘」
また悪戯っぽい笑みを向けてくる
なんでだろう。声も笑った顔も全然違うのに、、雰囲気が、似ているんだろうか
「気が向いたら、行くかもしれないです」
「おう。待ってるよ。」
さて、そろそろ子ども達にも望遠鏡見てもらうかと言って立ち上がり馬渕先輩の方に集まっている子どもたちに声をかけに行った
このまま望遠鏡の近くにいるとみんなの邪魔になるだろうと思い、俺と最初に座っていたベンチの方へ戻った
「サークルかぁ…」
毎日同じ繰り返しの生活よりも、何かはじめたら、もしかすると虎狛のことも忘れられるかもしれない…
「…いってみようかな」
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