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第12話 メンバーがそろった日

夜の公園で望遠鏡を覗いてからしばらくどうしようかと悩み、熊田先輩とも何度かやりとりをしたんだが、なかなか決断できない俺をみかねて、とりあえず一度サークル室に来てみないかと誘ってくれた せっかくの機会を逃すのも勿体無いと思い、俺は今、天体観測サークルと書かれた扉の前にいる 深呼吸して扉に手をかけた 「失礼します…」 ゆっくりと扉を開けて中を覗き込む 「失礼するなら帰ってやー」 椅子に座って本を読んでいる人がこちらを見ずに行って来た 関西弁…?? 「え?!あ、すみません…」 「ええ?!いやいやいやいや!!そうちゃうやろ!ほんまに帰ってどないするん?!?!」 帰れと言われたので出て行こうとしたのに、さっきまで本を見ていた男の人がこちらに駆け寄ってきて閉まりかけた扉を掴み無理やり開いた 「いや、でも帰れって」 「いやいや!ちゃうよ!そういうお笑いのお決まりセリフやん?!真に受けたらあかんやつ…… って、君、見たことない顔やな。どないしたん?こんな過疎サークルにくるなんて、もしかして迷子?残念やけど迷子センターは近くにないからなぁ迷子の放送してあげられへんのよ。あ、もし、間違えて来たんやったら、行きたいところまで案内したるで!ま、この近くならやけど」 「あ、えっと…」 この人めちゃくちゃ喋るな さっきから止まらない 勢いに圧倒されてしまって口篭っていたら、後ろから肩を叩かれる 振り向くと熊田先輩がいた あと、熊田先輩に引っ張られているのは、確か、馬渕先輩だったはず ということはこの人が俺と同期のもう1人のメンバーなのかな 「こら、橋間。猫田が怖がってるだろ。」 「あ、くまさんやん。自分が呼び出したのに遅いわー。遅刻やで遅刻ー。」 「悪い悪い。こいつが今日提出の課題忘れてて。それ手伝ってたら遅くなった」 「いやーすまん。ほんとにいつも助かってます。勇様ありがたやー」 「なんや、いつものやつか」 「まぁそういうことだ。っとそれよりも、猫田も待たせて悪かったな。」 「あ、いや、俺もさっき来たばかり、です」 「そうか、わざわざ時間作ってくれてありがとうな。とりあえず、中入ろうか」 そういわれて、サークル室内に入っていく。 じゃあお菓子でも準備するかねーと言って馬渕先輩は奥の方へ消えていった 橋間さんにここどうぞーと言われて部屋の真ん中に置いてある椅子に座るとさっきまで読んでいたであろう漫画の本が机の上に散らばっている チラリと見えたページに男同士がキスしているシーンがあった気がして凝視してしまった 「お、猫田くんとやらもこの本興味あったりする?よかったら読んでみる?なんならおすすめの本貸すで!?」 「え、あ、いや、その」 見ていたのがバレてしまって、興奮気味になった橋間さんにぐいぐいと詰められる キラキラと目を輝かせて、もしや同志?!?!と嬉しそうにしていて、興味ない、とは言えず返答に困る。実際興味がないわけではないし… 突然興奮状態の橋間さんの頭にスコンと本が落とされた 「いだっ?!ちょっくまさん、痛いやん!」 「知るか。お前が悪い。猫田が怯えてるだろ。」 とりあえずそれ片付けろと言って 申し訳なさそうに苦笑いしてこちらに視線を向ける 「ごめんな。えっと、こいつは橋間絢兎。 こんなだけど悪いやつじゃないんだ。ほんとに。」 「はい。それは、なんとなくわかります。」 好きなものを好きだと素直に言える人だということがよくわかった。あと、なんだか愉快?だし 「にゃーちゃん。君、ええ子やな!!そのメカクレもミステリアスで素敵やで!」 本当に賑やかだ 普通にしてると関わらないであろうタイプだなぁ ていうか、にゃーちゃん??? 「お前はまた勝手に変な呼び名つけて…」 「なんでよー。猫田やから猫やん?猫はにゃーやから、にゃーちゃんや!」 「にゃーちゃん…」 初めてそんなふうに呼ばれた ちゃん付で呼ばれることはあったけど、まさか猫の鳴き声からとられるとは 「はぁ…ほんと悪い。いやなら嫌って言っていいからな?」 「なんでよー!可愛いからええやん!な?にゃーちゃん?」 「えっと、、」 「こらこら〜あんまり怖がらせるな? せっかくのちょー!きちょー!!な新入りなんだからな! なー?猫田くん?」 あわあわしていると奥に行った馬渕先輩が両手にお菓子を抱えて戻って来た 好きなの食べていいぞーと言って机にお菓子がこんもりと置かれる 馬渕先輩も結構ぐいぐいくるなぁっていうか、いつのまにかサークルに入ることになってる!? 「香澄…お前も変な圧かけてんなよ」 「あっはは!すまん!勇が頑張ってたらし込んだ相手だっていうから逃すまいと思ってな!」 あっけらかんと笑っている馬渕先輩 俺、たらし込まれてたのか、あと、逃すまいって言いながらこっちに笑顔向けてくるの怖いからやめてほしいんだが… 「ほーん?くまさん、にゃーちゃんのこと口説いてたんや。わいの知らん間にそんなワクワクイベがあったやなんてっ!」 「おまえら…好き勝手言いやがって 別に俺は猫田が星見るの好きそうだったから誘っただけだ。 はぁ、もういい。とりあえず、猫田が来てくれたから今更だけど、自己紹介しとこうか」 まずは、一応サークル長、と言われて馬渕先輩が立ち上がった 「じゃ俺からだな! 馬渕香澄!2回生で勇と同期だ。 この天体観測サークルは去年勇と一緒に立ち上げたんだぞー。名目上はサークル長になるな。 ま、よろしくたのむ!」 次、勇だぞーと言って馬渕先輩が座り、熊田先輩に振った 「俺はもうしなくてもいいとは思うけど…まぁいいか。熊田勇、2回生。サークルの立ち上げに巻き込まれて一応、立場としては副サークル長ってとこかな。改めてよろしくな」 「ほんなら次はわいやなー!橋間絢兎いいますー。にゃーちゃんと同期で1回生や。よろしゅう。 あ、同期やし、敬語はいらんよ?なんなら、なんかあだ名つけてくれてもええし!え、めっちゃ名案やん!そうしよ!にゃーちゃん、なんかええ呼び方ない?」 「あ、あだ名?急に言われても…」 「だから、お前はぐいぐい行くなって言ってるだろ…さ、最後は猫田、よろしく」 またこっちに迫って来た橋間くんを抑えている熊田先輩に話を振られて、すっと椅子からたつ 「えっと、一回生の猫田彗です。今日は熊田先輩に誘っていただいて、お邪魔してます。よろしくお願いします。」 よろしくと3人から笑顔で返事が返ってくる せっかくだし、天体観測の時に使う機材やらこれまで撮った写真とか見ていくか?とサークル室内を案内してもらうことになった いい人たちだ。 タイプが違いすぎて馴染めないかもと思っていたけど、ここなら楽しくサークル活動できるかもしれない。 そう思ってその日のうちにサークル参加の書類を書いて出した。 ちなみに、この時、橋間にせがまれて考えたのが 絢兎の字からとったうさというあだ名だったりする。

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