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第14話 傷の慰め合い
急遽先輩宅にお邪魔することになって
帰りにスーパーで買い出しすることなった
飲み物やつまみを買い揃えてアパートまでの道すがら先輩から衝撃の告白をされた
「そういえば、先輩って二十歳になってましたっけ。
俺が今年19の年だから、一個上だと今年誕生日来てたら20、ですよね」
「ん?ああ、今日なったな。二十歳」
「へー、今日なったんです、ね?
え??!!先輩今日誕生日なんですか?!」
「おーそうだぞ。言ってなかったっけ」
はははと笑う先輩
いや、そんな日に急遽お邪魔してよかったんだろうか
先約とか…
「気にしなくてもいいって
さっきも言ったけど万年片想いの寂しい独り身だからさ」
「それは… でも、友達とか」
「……あー
いいのいいの。俺が猫田と宅飲みしたかったんだから。な?誕生日に寂しい男1人にしないでくれよ」
「う…そういうことであれば、お邪魔します」
「んはは、猫田は優しいな。……ありがとうな」
そう言って優しく頭を撫でてくる
横に並んでいたからあまり見えなかったけど、先輩の顔が少し寂しそうに見えた気がした
あと、なんか一瞬返事に間があったのも何か誤魔化された感じがして引っ掛かりはしたが
ここまでついて来た手前、帰りますとも言えずそのまま先輩の家にお邪魔することになった
「失礼します…」
「おう、何にもないけどゆっくりしてってくれ」
そう言って迎え入れられた部屋はモノトーンな家具で揃えられていて先輩らしいおしゃれなものだった
顔と性格だけじゃなくてセンスまでいいのか…
なんとなく落ち着かなくてソワソワしていると、座って待ってなと言われてベッド横のローテーブルのところへ座り込む
買い出ししたものをテーブルに並べて氷の入ったグラスを持って来てくれた先輩が向かいに腰掛ける
「お待たせ。猫田はとりあえずジュースでいいか?」
「はい。ありがとうございます」
グラスを受け取ってサイダーを注ぐ
シュワシュワと弾けて爽やかな香りがする
先輩は柑橘系のサワーを飲むことにしたようだ
炭酸の音と柑橘系の香りと一緒にほのかにアルコール臭がする
「よし、じゃあとりあえず、かんぱーい」
「乾杯。先輩、お誕生日おめでとうございます。」
「ん、ありがと」
両手でグラスを支えてコンっと先輩のグラスとぶつけて一口飲んだ
サイダーの甘みが沁みる
「お、これうまいな。結構好きかもしれん」
そう言って先輩は勢いよくお酒をのんでいく
どうやら、お気に召したみたいで
一杯目がすぐに空になってしまった
「先輩、あんまり一気飲みすると体に良くないですよ」
「んー、そうだな。気をつけるよ。」
そういいつつ缶からグラスにお酒を注いでいる
気持ち悪くなったりしないといいけど…
でも、ちょっとどんな味かは気になる
それからしばらく大学の話やサークルの話をしつつ、初の先輩との宅飲みを楽しんだ
俺も少しだけ先輩の飲んでいる缶チューハイをもらったりした
度数が低いとはいえアルコール感にすこし顰めっ面をしたら先輩に笑われたけど
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
「はい?」
「猫田の話、聞かせてくれよ。ほら、さっきの恋バナの続きとか、さ」
「いや!恋バナとかじゃ…ない、ですけど…
まぁ、そうですね。あいつとは家が近所の幼馴染で……」
保育園の時からずっと同じ学校で、いつも一緒にいたこと
高校のある時期に自分の気持ちを自覚して逃げるように地元から遠いこの大学に来たこと
忘れるために逃げて来たのにまだ引き立っていること…
先輩は俺がポツポツと話をする間、隣に移動して来て頭を撫でてくれていた
一通りこれまでの経緯や自分の今の気持ちを話し終えて机に置いてあったグラスの中身を一気飲みする
「あ、猫田っ それ!」
「んん゛っっこれ、お酒だぁ」
これまで少しずつ分けてもらっていたお酒で少しずつ温まっていた体がグッと火照る
「おいおい、大丈夫か…水とってくるからちょっと待ってな」
「んー、大丈夫です、よー。それより先輩の話も聞かせてくださいよ。俺ばっかりはずるいです」
立ちあがろうとする先輩の服の裾を掴んで引き留める
先輩はハァとため息をついて目線を合わせるためにしゃがみこんだ
「猫田、その上目遣いは可愛いけど離そうな。
水とってくるから、ちょっと待ってろ。そのあとでいくらでも話はするから、な?」
「んー」
「…まさかこんなに弱いと思ってなかった。付き合わせて悪かったな。ほら、これ」
「ありがとうございます…
んくっ…ふはぁ…」
立ち上がった先輩が持って来てくれた水を一口飲む
それを見てまた隣に座った先輩が自分のことを話し始めた
大学で声をかけられたことがきっかけでつるむようになったこと
最初は仲のいい友達くらいのつもりだったが一緒にいる時間が長くなるにつれていろんな側面を知り惹かれてしまったと
でも、相手は普通に女の人が好きで
望み薄な恋をしていると自嘲気味に笑った
もしかして、馬渕先輩のことですか?と喉元まででかかって、言うのをやめた
本人が明言しないのに聞くべきことでもないかと思って
「猫田はいいよな。きっとお互いに同じ気持ちだっただろうし」
「いや、どうですかね…それにもしそうだったとしても何も言わずに逃げた俺のことなんて」
きっともう、愛想尽かされてる
そう言って膝を抱えて顔を埋める
「お互いに難儀だな…」
「そう、ですね」
はぁと2人揃ってため息をつく
「そういえば、猫田は男同士でセックスとかしたことあるのか?」
「えっ?!唐突になんですか?!」
先輩から急に話を振られて顔を上げる
ほんのりと赤い先輩の顔がこちらを覗き込むように向けられていた
「ははっその反応見る限りなさそうだな」
その通り。そう言った経験は皆無だ。
ただ最近はうさの指導?のおかげで本の中での知識だけは増えてきているが…
「っ…からかわないでください…」
「わるいわるい。そう言うつもりじゃなかったんだ。
ふーん。そうかー猫田はその相手のために色々ととってるんだな」
「ち、違います……別にそう言うのじゃないですからっ
というか、そういう先輩はどうなんですか」
こちらを見てニヤニヤしている先輩を睨み返す
「俺か?んーまぁ、それなり、かな。これでも一年先輩だからな。大学入ってから色々あったんだよ」
「色々…」
「そう色々、な。俺も男だから溜まるもんは溜まるんだよ。猫田もわかるだろ?」
「う……否定は、しないですけど…」
そりゃ俺だって、1人でするし、、なんなら最近は後ろも触ってたり…まだ慣れないけど…
「なぁ、猫田。」
「…なんですか。」
「もし嫌じゃなかったら、寂しい独り身同士で慰め合わないか?」
「え…それって、どういう」
「お互い好きな相手がいて、後腐れないかと思ってさ。付き合ってるわけじゃないから浮気ってことでもないし。なにより、猫田なら色々と信用できるかなって」
どうだ?と言われて手を重ねられる
正直興味は、、ある
先輩を好きになることはないし、なってはいけないだろうから確かに後腐れもない…
でも、、一線は引いておくべき、なのかもしれない
本で読んだ一コマにキスだけは大切な時のためにとっておくのだというセリフがあった
なぜかすごく胸がグッと来たのを覚えている
「キス、以外なら…」
「わかった。キスはなしだ。」
正直お酒の勢いもあったとは思う
シラフだったら頷いてはいなかっただろう
じゃあ、と重ねられた手をぎゅっと握り込まれて先輩の方へ抱き寄せられた
「怖くないようにする。けど、もし嫌だったらちゃんといってくれよ」
背中をポンポンと叩かれる
先輩の優しいところにすこし虎狛を感じてしまう
一緒にするなんて、とは思うけど、そういうのがあるから抱かれてもいいと思ったのかもしれない
「よろしく、お願いします…」
その日の夜、俺は初めて男に抱かれた
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