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第22話 一世一代の
店の外に出ると落ち着かない様子の勇が待っていて、俺が出てくるのを見つけこちらに駆け寄ってきた
その表情には不安と戸惑いがうつされている
「ぁ か、香澄…」
「またせた。行くぞ」
「え、あぁ、はい」
空中を彷徨っていた手をとり、早足で歩き出す
繋がれた手から久しぶりの温もりを感じ
随分とお互いに避けていたんだなぁなんて思いながらアパートに向かった
道中はお互いに終始無言だった
話したいことはあるがなんと切り出していいのか探っている、そんな感じ
玄関前で深呼吸をして繋いでいない方の手で扉を開ける
「中、入って。飲み物出すから待っててくれ」
「お邪魔、します」
「おう」
おずおずと部屋の中に入ってくる勇を座らせて
冷蔵庫から飲みかけの水を取り出し一気に飲み干した
アルコールで火照った体に染みていくのがわかる
少し頭も冷えた気がする
2人分のグラスを出しお茶を注ぎ、勇の待つリビングに向かう
「お茶でよかったよな。」
「あ、おう。ありがと」
「………」「………」
テーブルを挟んでお互いに無言になる
話があるって言ったのは俺なんだから、俺が切り出さないと…
いつまでもこのままじゃ嫌だと、そう思っているのは他の誰でもない自分だろ
「あの、さ。勇は猫田のことが、好きなのか?」
「え?!い、いや、猫田のことは別に好きとかでは!後輩としてはそりゃ可愛い奴だとは思ってる、けど」
「嘘つかなくてもいい。噂で聞いたんだ。2人がその、、セックスするような仲だって」
「っ……それは」
口籠る勇を見て噂は本当だったんだなと確信した
そうか、やっぱり二人はそう言う関係だったのか…
「そうなんだな。やっぱ、付き合ってんだろ?」
「違う!!本当に違うから!!
猫田とは確かに何度か寝たことはある、けど。それは互いに、その、都合がよかったから、というか…いや、確かに誘ったのは俺なんだけど、好きだから、とかじゃなくて…」
言いにくいことなのか歯切れの悪い返事をする
そういえば、橋間も猫田が都合のいい相手にされてるだなんだって言ってたな
というか、もしそれが本当なら
「お前…サイテーだな」
「うぐ……そう、だよな。自覚はしてる…」
「で?好きでもない相手を抱いてたら情が移ってだんだん好きになったとか?最近べったりだったもんな」
「それはない!!俺が好きなのは!!!」
バンっとテーブルを叩き勢いよく立ち上がったが、全部言い終わる前に失速してまた座りこんだ
「俺が好き、なのは…」
「俺はお前が、熊田勇が好きだ。」
勇の口から好きなやつの名前がでる前に言葉を被せる。自分の好いてるやつの想い人を聞かされるなんてごめんだからな。どうせ振られるなら…それなら先に自分の気持ちをはっきり伝えておこう。そう思って目をしっかりと見つめて言葉を放つ。
「……へ?」
なんとも間抜けな顔をしている。まぁそりゃそうか、お互いにだか最近距離を置いていた友人から突然こんなこと言われたらポカンともするだろう
でも、俺は決めたからな。はっきり伝えてやるんだ。返事なんてどうだって良い。自己中かもしれないけど、せっかく気付けたこの気持ちを無かったことにはしたくないから
「好きだ。お前のことが好きなんだ。他人にお前を取られてむちゃくちゃ嫉妬するくらい。なんなら今だってお前の口から俺以外のやつの名前が出てくるのに耐えられないくらいには勇のことが好きだ。仲のいい友達だと思ってくれてたのにごめんな。俺はもうたぶん友達じゃ満足できなくなってるみたいだ」
恥ずかしくなって段々と目を背けてしまう
ちゃんと伝えようと思っているのにいざ振られるとなると思っているより弱気になってしまうらしい。
「ちょ、ちょっとまった!!」
人の一世一代の告白を中断してきやがった
立ち上がった勇にテーブル越しに手を掴まれる
「なんだよ。こっちはもう覚悟できてるんだからさっさと振れよ。」
「いや…え……?誰が誰を振るって??というか、香澄が俺を好きって??うそ、だろ…」
「はぁ?!?!いくら勇でもその発言は許さんぞ!!俺の今世紀最大の告白を嘘だなんて言いやがって!!!」
「ご、ごめん。違うんだ。その、信じられなくて。まさか香澄も好きだと思ってくれてたなんて…」
「……俺も?」
「そうだよ!俺が好きなのはお前だよ。ずっと好きだったんだ。」
「……じゃあなんで、あの日約束破ったんだ?
なんで、俺じゃなくて猫田優先したんだよ。」
「あう…そ、れは…その…」
言いにくそうにあの日あったことを話し出した
俺のことが好きだけど、俺は女が好きだろうと思っていて、同じように叶わない恋をしている猫田を誘って………
で、それ以降、なんとなく俺と話すのが気まずくなって避けていたと
なるほど……
「やっぱりサイテーだな」
「自覚あるって言ってるんだから何回も言わないでくれよぉ…」
「うっせ。今後一生ネタにしてやる。俺がどれだけ寂しい思いしたと思ってんだ。
この
ヘタレの性欲モンスター」
「ぐぅっ……そんなに言わなくてもいいだろ…」
「あーあーなんでこんなの好きになっちまったんだろうなー。勝手に人の心を決めつけて可愛い後輩を身代わりにするようなやつだったなんてなー。」
「おまっ……いや、それは、事実、だけど!うぅ……本当に申し訳ありませんでした…」
「まぁでも、そんなやつだってわかってもやっぱり俺はお前が好きだ。どんなにだらしなくてヘタレで性欲モンスターでも俺にとっての勇は一人しかいないから。」
「ぐふっ…なんだろう。好きって言われてすごく喜びたいのに素直に両手をあげて喜べないこの感じ…」
「ま、とりあえずさ。返事してくれよ。」
「え…返事?」
「そう、俺の一世一代の大告白に対しての返事。ちゃんと、好きなのは俺だけだって」
「それは、さっき…」
「お前とかじゃなくて、ちゃんと名前呼んでくれないと嫌だ」
「っ………すぅ……
俺は馬渕香澄が好きだ!ずっと前から大好きだ!!だから、こんな俺だけど恋人になってくれると嬉しいです!」
そう言って片手を差し出される
両手でその手を包み込み、強く握りしめる
「ん。こちらこそよろしくお願いします。ただし、今後浮気は絶対許さんからな」
「は、はい…すみません」
「俺なら多分猫田より体丈夫だし、満足するまで付き合ってやるよ。な、モンスターさん?」
「へ?!!?!」
顔を真っ赤にした勇を見てゲラゲラ笑う。
こんな顔もするんだな、なんて
これからもっと知ることができるんだと思うと嬉しくて仕方ない
あー、やっぱり本当に好きなんだなと再度確認した
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