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聖母の消滅 1/3
ベッドでアレク様と事後、イチャイチャしてた。
「リシェは常に愛らしい…。」
僕の首筋の汗に舌を這わせながら耳に囁く。
「んっ…!それは、僕がアレク様の事を愛してるから…。」
「違うな、俺がリシェを愛しているからだ。」
耳への愛撫に追撃するように、ちゅっと何度も耳に口付けられて、僕は息が荒くなってしまう。
こうやって毎日同じ事を言ってても幸せを感じるんだなって、アレク様が教えてくれた。
身をひしと寄せると、アレク様の息も荒くなって…。
「リシェ…もう一戦行けるか?」
「うん。」
実はさっきからこれで三戦目なんだけど。
事後のたびに睦言でまた高まってしまって、一戦で済むことがなかったり。
僕だけを求めてくれるアレク様…。
それだけで僕は幸せいっぱいになってしまう。
「……チッ、またか!」
急にアレク様が手早く魔法で着衣させてくれた。
転移の魔法を応用して服を着衣する。
相当繊細な魔力の操作に違いないのがわかる。
一瞬で二人とも服を着たと同時に部屋に誰かが飛び込んで来る。
真っ黒な影が僕の懐に入り込んだ瞬間、結界を張る暇も無く僕に攻撃が向けられたけど、それより速くアレク様が僕を転移して、侵入者から距離を離した。
「っ…!?」
僕が転移した先で状況を確認しようと周囲を見回した時、アレク様が膝をつく。
「あ…アレク様っ!!」
攻撃でも喰らったんだろうか?
急いで近付こうとしたその時。
「あらー、寄らなくていいわよ。」
僕に向けてそう言って来たのは、長いウェーブヘアの黒髪の、黒の露出の多いドレスを着た、何だか胸が物凄く大きい女の人だった。
女の人はアレク様に抱き付いている。
当然のようにアレク様に胸を押し付けて。
何故かアレク様は女の人から離れない。
「アレク…様?」
「ああ、あんた本当にそっくりね、芹澤美月に。」
「えっ…?」
この人、姉さんを知ってる?
しかも日本での…。
「いつか美月に仕返ししてやりたかったのよ!同期なのに会社での地位も、男だって極上なのを手に入れて、あの女より美しい私が手に入れられない物を、全部!」
悔しげに叫ぶ女の人。
「姉さんは、努力をして来ました。」
「私だってしてきたわよ!ネイルにエステ、整形だってしてね!」
そう言って胸を自慢気に揺らして見せる。
胸、整形なんだ…どおりで変に大きいなって。
「それは努力の方向性が違うからじゃないかと…。」
「女としての魅力を私は磨いたわ。美月なんて仕事は出来るけど、それ以外は私が勝ってた!だからこんなに腹が立つのよ!」
言いたい事はあるけど、何を言っても無理な気がしたから黙った。
それよりアレク様!
「だからね、美月に間接的に仕返ししてあげようと思ってね!」
「間接…?」
それだけ言うと女の人はアレク様にしなだれかかる。
それでもアレク様は反応しない。
「アレク様!どうしたの!?」
「聖母、あんたは繋ぎの存在だったってわけ。涼一君と結ばれるのは私だったのよ。おわかり?ほら、全然抵抗しないでしょう?」
涼一さんの事も知ってる!?
日本の人…きっと転生者。
女の人はアレク様の股間を撫で回す。
本当にアレク様は拒否しない。
繋ぎ……?
えっ?僕は…この女の人がアレク様と会うまでの?
アレク様を信じる気持ちと、女の人の言葉がごっちゃになる。
「顔色が悪くなったわね。そういう顔、本当は美月にさせてやりたかったのよ!もういいわよ、勇者、好きになさい!」
女の人がそれだけ告げると、混乱した頭で僕は転移させられた。
次の瞬間僕は勇者の腕の中に居た。
「…離しっ…!」
逃れようと暴れるけどびくともしない。
「聖母様、貴方の旦那は…あの男はあの女の番なのです。」
「つ…番!?」
「会うと一瞬で互いに惚れてしまう。今までに例え他の人と何があっても。」
「い…今まで……。」
アレク様の事を信じてるのに、そういう存在が居るっていう情報は確かに聞いたことがある。
異性の方がそういう存在として相応しいって事実もわかってた。
だってアレク様が拒否していない。
身体中の力が抜けてしまう。
「聖母様…本当に結ばれるべきは、勇者である俺と……。」
勇者の方を虚ろに見た瞬間…勇者の持つ盾に付いた宝石が光った。
変な感覚…違和感、何この感じ……。
何だっけ……そう、僕は…。
「聖母様?具合は…。」
僕の顔を覗き込んで来る顔に、僕は笑みを浮かべた。
「平気です、勇者様…。」
「聖母…っ様!」
ぎゅっと強く抱き締められる。
僕が誰よりも愛している勇者様に。
「勇者様…いつものように、僕を勇者様の物にしてください。」
「猛です、聖母様っ!」
「猛様…早く。」
そうだ、いつも僕だけを愛してくれている猛様。
猛様と居られて僕は幸せ…。
理由はわからないけど胸が痛むから、猛様がいつものように抱いてくれたら、きっとそれも収まる。
僕は目を閉じた。
「聖母……さま。」
猛様の唇が僕の唇に息をかけるほどに近付いた。
「解析完了だ!」
アレク様の声が響く。
女の人はアレク様にぶん投げられていた。
猛様は僕を放さないように抱き締めてアレク様を警戒する。
「ちょっと勇者!術はどうしたの!?」
女の人は忌々しそうに猛様を怒鳴りながら、アレク様の攻撃を必死にガードしてる。
アレク様の攻撃をガード出来る何らかの能力を持ってるのかな。
転生者は大抵特殊な能力を持ってるから。
「聖母様には効いている。」
「それも終わりだ!」
いつの間にか猛様の傍に転移していたアレク様は、猛様の転移を封じてしまい、猛様の盾を闇弾で破壊した。
「…ぁ…!?」
その直後、僕は急激に頭がスッキリする。
猛様じゃない、僕はアレク様以外愛さない!
「離して下さい!」
僕を抱き締める腕から必死に逃れようと再度暴れると、アレク様がすぐに僕をアレク様の腕の中に転移してくれた。
「よしよし、術の効果は残ってないな?」
「うん!」
本当は泣き付きたかったけど、今は戦闘中だから我慢した。
今度こそすぐに結界を張る。
「勇者、お前の今回の術は『認識を歪める術』。俺もリシェも本当の相手を誤認させられた。だからどんなに想い合っていようと、間違えた相手を本当の相手だと思い込まされた。」
「誤認…。」
確かに勇者のことをいつものアレク様のように思った。
勇者ってそんな力を持ってるの?
僕は身震いしてしまう。
するとアレク様が僕を温めるように、僕を抱く腕に力を込めてくれた。
大丈夫、アレク様が居れば僕は。
「アレク様!」
僕は力を発動する。
「成程。」
僕の意を組んだアレク様もまた力を発動させる。
「な、何よ!?勇者、転移しなさい、ひとまずここは…!」
「っ…転移が使えない!」
勇者は今になって転移が封じられてる事に気付いた。
そして…。
「二人とも、地球に還してやる!」
そう、逆召喚だ。
アレク様との合わせ技。
「やめてよ!あっちなんか還りたくない!!」
女の人は何か現実逃避したくなる事でもあったのかな。
可哀想には思うけど、今後を考えたら子供達に危害を加える可能性が高いから。
術に取り込まれた二人は必死に抵抗しようとしてるけど、この術中は誰も動けない。
だけど術が完成する前に…勇者が死力を出して動いた。
術中は動けないはずなのに。
勇者というチートな存在を侮っていた。
僕は愕然とする。
「俺は勇者なんだ!!地球なんかに戻ってたまるかああぁぁっ!!アイテムクリエイト!!」
勇者が叫んだ。
術を途中でやめると反動で何が起こるかわからないから、僕もアレク様も止められなかった。
一瞬早く僕の術が完成した、その時。
勇者は新たな剣を出現させて、アレク様に投げ付けた。
もしも術の邪魔をされた場合を危惧して、安全圏に居たのにも関わらず、剣は迷いなく僕達の所に向かってくる。
「本物の核を絶対に壊す剣だ!消えろ、魔王!」
勝ち誇る勇者。
結界は、今の術で神力が足りない!
僕はアレク様の前に身を投げ出していた。
剣が僕を貫くのと、アレク様が術を終えて、二人が地球へ転移するのとほぼ同時だった。
僕は衝撃で倒れこむ。
「リシェ―――っっ!!」
アレク様が、床に落ちる前の僕をしっかりと抱き止める。
「あ…れく…さま…。」
僕の胸の辺りでパリンと壊れる音がした。
アレク様は壊れた核を見て目を見開く。
「リシェ!リシェ!!頼む!!消えるな!リシェが消えたら俺はもう立ち上がれない!リシェ!」
「大丈夫アレク様…。割れたのは僕に寄生した聖母の核だから…。」
今にも泣きそうなアレク様の頭を撫でながら告げる。
核を壊して満足したのか、勇者が作った剣が消えた。
「リシェ……。」
言葉を聞いて安心したアレク様が、僕を強く抱き直す。
さすがに胸に剣を喰らったから衝撃で倒れてしまったけど、他は何ともない。
治癒を二人に掛けながらどうにか微笑を向けると、アレク様が唇を重ねてきた。
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