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第2話「写真家、高崎恋糸」

 人混みの中でも、彼の姿はよく目立つ。その理由は単純で、道行く人々が、皆彼を振り返るからである。美しい顔と長い手足を上手く使いこなした彼の姿は、自然と人々の目を引いた。  しかし、当の本人は、そんな視線など慣れっこなのか、知らぬ人々のことなど気にもとめず、すました顔で携帯を弄っていた。 「……た、高崎さん」 「お。良かったー、来てくれたんだ」  銀河がおずおずと声をかけると、今まで無だった恋糸の顔に、安堵が浮かんだ。銀河は、それを不思議に思いつつも、彼が笑ってくれたことにほっとした。銀河は小さく頭を下げ、自分の身体の前で手を組んだ。 「すみません、遅くなりました」 「いやいや、昼ってことしか決めてなかったし。……お家の人、俺と行くって知ってる?」 「あ……いえ。でも、大丈夫ス。……いてもいなくても、誰も気にしないんで」  恋糸は、一瞬だけ怪訝そうにしたが、すぐに元の優しそうな微笑みに戻った。 「ん。そか」  特に興味はないようで、彼は素朴な返事をした。深く詮索されなかったことに、銀河はまたほっと胸をなでおろす。恋糸は携帯をポケットにしまうと、一度伸びをしてから歩き出した。 「じゃっ、行きますか」 「よ、よろしくお願いします……」  銀河はきゅっとバッグを握り、もう一度頭を下げた。 「あはっ、緊張しなくていいよ。お詫びなんだからさー」  恋糸はのんびりとした口調でそう言って、ふらふらと銀河の前を歩いた。風に吹かれ、彼の甘い匂いがした。  恋糸に連れられてやってきたのは、駅から徒歩五分ほどの場所にある、木造の飲食店だった。店の上には、大きな看板に「好葉」と店名が記されており、軒先には黒いメニュー看板が出ている。  銀河は、そこに連なる料理名の高級そうな響きに面食らって、恋糸のあとを追ってそろそろと入店した。 「よー、ライ……」 「ああ!?」  恋糸が親しげに手を上げた先で、見覚えのある男が威嚇にも似た大声を上げた。銀河は驚いて半歩引き下がる。男はずかずかと恋糸の目の前まで来ると、恋糸の肩を掴んで、彼を睨み上げた。 「恋糸、お前何のつもりで」 「ご、ご飯! ご飯食べに来たんだよ、当たり前だろ? ごはん屋なんだから」  恋糸は顔の前でバタバタ手を振り回し、へらっと笑った。よく見れば、見覚えのある男は、先日恋糸にライラと呼ばれていた男だった。  ライラはじとっと恋糸を睨んで、低い声で言った。 「……なんでうちに」 「だって、この辺りで一番だろ?」  にこりと微笑んだ恋糸の肩を、痛そうなほど強い力でライラは握る。恋糸は苦笑いを浮かべ、そっと銀河を指差した。 「……この子にうまいもん食わせてあげてよ。お詫びなんだ」  恋糸の言葉に、ライラは銀河をちらと見た。銀河は、突然向けられた鋭い眼差しに、びくっと肩を跳ねさせた。  ライラはしばらくじっと銀河の顔を睨みつけたあと、恋糸の肩から手を離した。 「…………俺に絶対話しかけるなよ」 「うんうん。分かってるって」  恋糸は必要以上に何度も頷き、またにこりと笑った。ライラは、銀河の顔と恋糸の顔を交互に見てから、渋々厨房へ戻っていった。 「……あの……」 「あー、アレ気にしないで」  いこ、と恋糸は銀河に声をかける。なんの質問も許されない気がして、銀河はただこくりと頷き、おとなしく恋糸の後ろをついていった。  席につくと、恋糸は上機嫌でメニュー表を手に取った。彼は一通りそれに目を通すと、すぐに机上に放り出した。 「……銀河くん、何食べる? ここのはなんでもうまいよー」 「あの、いいんですか、本当に」  銀河は小さな声で言った。 「俺……別に何もされてないし……。それに、失礼だったのは、俺の方じゃ……」 「いいのいいの。若い子なんか、何も考えずに、人の金でうまいもん食べて遊んで寝てたらいいんだって。これホントよ」  恋糸はそう言い、銀河のいる側へメニュー表を押した。銀河は、ゆっくりとそれを開く。  メニュー表には、食欲をそそる写真が何枚もついていた。どの写真も美しく、メニュー一つが、まるで高価な作品のように見えるほどだった。こんな写真で紹介される食べ物なんて、一体どれほど高価なものなのだろう。銀河は、おそるおそる、文字に目を通した。  どれもこれも、銀河にとってはかなり高級なものばかりだ。安いものでも、銀河がいつも食べている昼飯とは比べ物にならない値段がする。銀河はとうとう震え出し、あの、と小さな声で言った。 「……あの、俺……、た、高崎さんが選んだものにします」 「いいよいいよ。待つから。……何が食べたいかゆっくり考えな」  恋糸はそう言い、机に肘をついた。その姿は、待っているというより、悩む銀河を見ることを楽しんでいるようにも見えた。  銀河は、再びメニュー表と向き合った。  待たせるわけにはいかない。愛想もない上にトロいやつだとは、思われたくなかった。銀河は文字を追いかける。  焦る目を滑っていく料理名。その下に小さく表示された金額ばかりを、目が追ってしまう。どれも決して安いとは言えない値段である中、何を頼むのが正解なのかちっとも分からなかった。銀河は目をあっちこっちさせ、首筋には知らぬうちに汗をかいていた。 「……銀河くん、牛肉好き?」 「えっ、えっと……」  困っている銀河を見かねてか、恋糸が声をかけてきた。銀河は動揺し、その簡単な質問にも答えられなかった。 「こっちにもあるよ、メニュー」  恋糸はメニュー表の裏をこつこつと指先で突いた。裏返すと、そこには一枚の鮮やかな写真があった。  カリッとした褐色に包まれた、美しい赤。てらてらと光る野菜。音がしそうなほどいきいきと跳ねるソースの飛沫。 「おいしいよー、フィレステーキ。マジで、夢と希望と憧れの味がするよ」  銀河は、値段を見るより先に顔を上げた。 「……これにします、俺」 「イイね」  目をにっと細め、恋糸は笑った。その顔は何故か楽しそうで、銀河にはそれが不思議だった。  注文を終え、二人はお冷とともに部屋に残された。狭い空間の中で、銀河は居心地の悪さから、コップに何度も口を付けていた。 「……ねえ、銀河くんって、何歳?」  ふと、恋糸が尋ねた。銀河は身体を縮こまらせ、小さな声で言った。 「じ、十五歳です」 「ん!? 十五!? じゃあ中学生?」 「あ、いや……もうすぐ十六です……」 「うわ、ホントに……? あー……ホントに情けないな、俺は……」  恋糸は頭を抱え、その頭を冷やすように一気に水を飲む。銀河と目が合うと、彼は本当に申し訳なさそうな顔で、ごめんね、と言った。 「……銀河くんって、今何してるの?」 「いま……?」 「学生さんじゃないでしょ。今日水曜だもん」  恋糸は尋ねた。銀河はコップを下ろし、その縁を指先でなぞりながら話し始めた。 「あ、ああ……。高校には行ってません」 「どうして?」 「両親が、事故で死にました」  淡々と語られたその言葉に、恋糸は目を見開き固まった。 「そっか。大変だったね。……今も」  恋糸は、銀河のことを慰めるように微笑んだ。彼の笑顔は、何故か父や母を彷彿とさせ、胸に、どこか懐かしい気持ちがこみ上げた。銀河は少し間をあけて、ゆっくりと喋り始めた。 「……俺があんまり無愛想だから、金と一緒に、親戚をタライ回しにされてて、それで高校には……」 「へー、そうかぁ。ぶあいそったって、そのくらいの歳なら、大体誰だって身内に対してヘラヘラなんかしてらんないよね」  恋糸は机に肘をつき、ヘラヘラと笑った。銀河は、彼のその対応に面食らったが、嫌な感じはしなかった。この手の話の対応として、正解などは存在しないが、不必要に憐れまれたり、理解できないものを無意味に怖がられたりするよりは、幾分か良い。 「俺もあったなー。懐かしいなー……。安心しな、だんだん心地よくアホになっていくから」 「…………はい」  銀河は小さく頷いた。  二人の間には、すぐに沈黙が流れはじめた。銀河は静寂が気まずくなり、また水に手を伸ばした。水を飲むふりをしながら、恋糸の表情を伺う。  恋糸は、店員がそばを行き来するのを見つめていた。彼の目は、柔らかい琥珀色をたたえて、きらきらと楽しそうに人の往来を捉えている。  ふと、銀河はその綺麗な横顔に疑問がわいた。 「……あの」 「ん?」 「高崎さんは……普段何を?」  恋糸は、よく宅配便を頼むが、その時間帯は昼間が中心で、不在であることはめったにない。その上、いつも、仕事着とは到底言えないような服を着て、銀河の対応をする。  恋糸の綺麗な顔立ちから、もしやモデルや俳優なのではないかと、銀河は密かに思っていた。 「あー……俺は……」  尋ねられた恋糸は、珍しく言い淀んだ。目線をそらし、何か後ろめたいことでもあるかのように口をまごつかせる。 「カメラ……」 「カメラ?」 「写真、とってんだよね……一応」  銀河は目をぱちぱち瞬かせ、少し身を乗り出した。 「写真家さんってことですか?」 「いや、今は……今はちょっと……何も出せてないんだけど……」  恋糸はそう言い、何故か嬉しそうにワントーン高い声で飛びついてきた銀河に、苦笑いを返した。 「元・写真家っつの?」 「……やめちまったんですか?」 「いや、やめたわけじゃ…………」  煮え切らない返事をする恋糸を、銀河は首を傾げて見つめる。恋糸は気まずそうな顔をして額を押さえた。 「……あはっ、あー……なんていうか…………すごく長いスランプ?」 「えっと……今も写真家だけど、長いこと写真がとれなくなっちまったってことですか?」 「……そうだね」  恋糸が答えると、銀河は何度か頷きながら、元々いた場所まで身体を下げていった。 「へえ、写真家さんなんスね。……きれいだから、写真撮られる側かと思いました」 「うん、まあ……そういうときもあったな」  恋糸は苦笑を溢し、一息つこうとコップのふちに口をつける。ゆらゆら揺れる水面を見つめ、うつむいた。 「でも、もう今は何も手出せてないなー……」 「……じゃあ、普段って何してんですか?」  銀河は尋ねる。恋糸は、あまりにもくる銀河に思わず笑った。 「あはっ。失礼だねー」 「あ……スマセン……」  銀河はしゅんと小さくなった。どうやら、喋りすぎたらしい。  喋りすぎてしまったことなど、人生で初めてだ。恋糸と話していると、自分でも不思議なほど、自然と言葉が浮かんでくる。それがいいことか悪いことか、銀河には分からなかった。   「……いや、いいよ。あは、面白かっただけ。……なんだっけ、普段何してるか?」  恋糸は顎に指を当て、分かりやすく考える素振りを見せた。 「んー……ぼーっとしてるかな。本読んだり、ゲームしたり。あとはセック、ス……。あ、ごめん、未成年」 「い、いえ、別に……」  銀河はわたわたと顔の前で手を振った。すぐに、顔がかっと熱くなる。  別に、未成年と言ってももう十五歳なのだから、わざわざ気にすることはないのに。銀河はそう思いつつも、その話題をうまく聞き流せずにいた。  そんな銀河を見て、恋糸がにやっと笑った。 「……あは。ウブだね、銀河くん。あんまそういう話題好きくないんだ?」 「いや、あの、ち、違くて! あ、あんま、そういうの、聞き慣れてなくて……」  銀河は指先で胸を撫で、もじもじとその場で身じろいだ。  中学校では、そういう話は「恥ずかしい話」だった。だから、誰かの悪ふざけでしか聞いたことはなかったし、ましてや、生活の一部として話されたことなど一度もなかった。それが、思春期特有の、いわゆる「子供っぽさ」だとわかってはいたが、銀河はまだどうしても、少し恥ずかしい感じがした。 「も、恥ずかしいのが恥ずかしいっつか……、き、気にしないでください……」 「あはっ。かわいー、銀河くん」  銀河が狼狽えていると、突然、恋糸が、銀河の顔に手を伸ばしてきた。人差し指の背が頬をなぞり、銀河はぴくりと反応する。 「愛想あるじゃんね?」  火照った頬を、恋糸の冷えた指がなぞる。銀河は、ドキドキと高鳴る胸を押さえ、ただ恋糸を見つめていた。一秒も数えられないうちに、恋糸の手は、今度は銀河の頭に移動した。 「なんだ、銀河くんかわいいじゃん。大丈夫だよ。なんとかなるって。俺みたいな腐ったオトナは、君みたいな綺麗なコが大好きだし。いっぱい利用してけー?」  何の話だったっけ。  ぐしゃぐしゃと頭を揺らされながら、銀河は胸を押さえ、考えていた。  愛想があると言われたのは、生まれて初めてかもしれない。銀河は、恋糸のことを、変な大人だと本気で思った。 「あは。まったく、誰がこんなにかわいい銀河くんにぶあいそなんて言ったんだ? 可哀想に」 「あ、あの……っ、高崎さん、はずかしいス……」 「あっ、ごめんごめん。俺すぐ手が出ちゃうんだよ。堪え性なくてさー。……ほんとすぐ、手が」  恋糸はひらひらと右手を振り、苦笑した。 「あ、でも安心していいよ、銀河くんには手出さないからね」  コップを持ち上げて、恋糸はそう言った。水を一口飲み、彼は何かを思い出しているかのように、ぼうっと机を見つめる。 「たとえコドモがどんなつもりであろうと、オトナがコドモに手出しちゃいけないよ」  恋糸がコップを置いた。気まずくなって、何か話そうとした瞬間、店員が料理を持って現れた。 「お待たせいたしました。フィレステーキでございます」 「あ、この子に」 「……あっ、ありがとうございます……」  銀河の目の前に、鉄板の上で美味しそうな音を立てるステーキが置かれる。銀河は、視覚から得られるおいしさに耐えられず目を見張った。ふわっと、にんにくと肉の香りがして、胃がきゅっと反応する。 「さ、熱いうちに食べなよ。おいしいものはおいしいうちに食べなきゃ」 「……じゃ、すません。お先に」  銀河は肉を切り分け、すぐに飛びついた。肉とソースの味が広がり、ガツンとにんにくが香る。咀嚼すると、肉は油を溢れさせながら解けた。 「……おいしい?」 「うまいス」  銀河はぺろりと唇を舐め、また肉を口の中に放り込んだ。次いで白米を口に入るだけ入れ、懸命に咀嚼する。それを見て、恋糸が吹き出すように笑った。 「あは、おいしいね?」 「……ス」 「好きなんだね、お肉。良かったよ」  恋糸は机に肘をつき、クスクスと笑った。  恋糸の料理が運ばれてくると、彼は手を合わせて、銀河と同じくらい勢い良く肉に飛びついた。彼は、やはりこの店はうまいな、とでも言いたげに、頷きながら白米をかき込んでいた。 「……恋糸、恋糸。飲みモン」  突然、二人の部屋に、ライラが顔を出した。彼は飲み物を二杯、隙間から恋糸に突き出している。 「うわ、マジ? ありがとう、ライラ」 「やめろ、は」 「なんだよ、お前はライラだろ」 「いつの話だよ」  恋糸はにやにや笑いながら、上機嫌で彼からグラスを受け取った。しかし、少し口をつけたところで、彼はびくっと跳ねてグラスを身体から離した。 「うわ、これ酒じゃんライラぁ」 「……これ以上は出ていってもらうぞ」 「おい、冗談だろー?」  恋糸はカラカラ笑いながら、ライラのそばまで身体を寄せる。うざったそうに眉をひそめた彼に、恋糸はグラスを突き返した。 「……悪い。あとで飲む。銀河帰ってから」 「ああ、そうしろ」  ライラは、グラスを机の端に置いて、すっと帰っていった。  その間、銀河はずっと肉を口に投げ入れ続けていた。眉をひそめ、紙ナプキンで口元を拭う恋糸を、ぼーっと見つめる。 「写真て……」 「え?」 「写真って……見せてもらえたりしますか」  銀河は、口に肉を運ぶ合間にそう尋ねた。 「あっ、写真? 写真か。いいけど、今手元にないな」 「そうスか……」  ぽつりと呟いた銀河が、恋糸には、少しだけ残念そうに見えた。  恋糸は、彼がどうしてそこまで一喜一憂できるのか不思議に思っていた。普通、カメラが仕事の人間に出会ったところで、できるのは曖昧に褒めて微笑むことくらいだろう。  もしかして、彼もカメラが好きなのだろうか。いや、だとすれば、自分の名前を知らぬはずがない。  恋糸がうんうん考えているのを見て、銀河がまた口を開いた。 「……あの、どんなの撮るんですか?」 「あー……いろいろだねー……。好きなもの撮ったり、テーマに合わせて撮ったり、頼まれてだったり……」  恋糸は、曖昧な言葉を返した。 「……気になるなら、俺の名前で検索するといーよ。いくつか出ると思う」 「あ、俺スマホがなくて」 「スマホないんだ!? おっけおっけ、じゃあ俺ので検索するか……」  恋糸は、自分の名前を検索欄に打ち込む。もう全く動かさなくなった昔のSNSアカウントがトップに見えて、胸が苦しくなった。 「……あー、あんまり写真載ってないなー……七年前となるとなー。最近何も撮らなくなっちゃったしなー…………あ、こういうのこういうの」 「わ……!」  写真を見た銀河は、一瞬言葉を失った。 「すげー……!」  写真には見えないほど、鮮やかな色味。カラフルな服を着た人が、これまたカラフルなペンキで肌や髪に色をつけられている。表情は溌剌としていて、目の奥がギラギラと燃えていた。 「これ、高崎さんが撮ったんですか? すげー、めちゃくちゃ綺麗スね」 「そうだろ。まー、結構良い写真撮ってたんだぜ、昔は」  恋糸は、自慢げにそう言った。それは、どこか大袈裟な素振りにも見えた。 「……あの、どうして撮らなくなっちまったんですか?」 「んー、なんでだろなぁ……」  恋糸はまた曖昧な返事をした。しかし銀河は、それが全く気にならないほど、食い入るように写真を見ていた。黒い瞳が、キラキラと輝きながら、画面を見つめている。 「……そんなに気に入った?」 「はい。……なんつーか……良い写真」  銀河は携帯の画面をじっと見つめ、微笑んだ。 「高崎さんは、写真撮るのが好きだったんですね」  その言葉に、恋糸は、懐かしい気持ちを思い出して、なんだか切なくなった。 「あっ、すません、ご飯中にずっと……」 「いやいや、いいよ。気に入ってくれてうれしーわ」  にこりと笑う。銀河が、ほっとしたような顔をして、肉に目を戻した。  恋糸は、銀河をじっと見つめる。久しぶりに、写真を純粋に褒められた。それが、信じられないほど嬉しくて、何故か寂しくもあった。 「…………写真……刷ったのが家に何枚かあるかも」 「えっ、本当スか」 「うん。よければ、今度見てってよ」  銀河は肉を食べる手を止め、先程のようにやや身を乗り出してきた。 「み、見たいス。いいんですか?」 「あは、いーよ。いくらでも。これで詫びになる?」  恋糸は、そう言った後、少しだけ不安そうな顔で続けた。 「……また、俺のとこに配達来てくれる?」 「もちろんス。俺、担当なんで」  恋糸は、そっか、と眉を下げて嬉しそうに笑った。

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