10 / 13

第10話「先生」

 真夜中、ふと銀河は目が覚めた。眠りの浅い方ではない彼にしては珍しいことで、銀河は不思議に思いながら目をこする。すると、先程まで隣で寝ていたはずの男が、そこにいないことに気が付いた。 「……こいとさん?」  銀河は布団の中で身じろぎながら、ぼんやりと言った。すぐに、案外近くから、優しい声が返ってきた。 「ごめん、起こしたか?」 「……どしたんですか……?」 「ちょっと行くとこがある。銀河は寝てな」  暗闇から手が伸びてきて、頭を撫でられる。銀河は寝ぼけた頭でそれに擦り寄った。 「……銀河も来るか?」 「んー……いかねス……」  眠気に耐えられず、銀河は丸くなる。すぐに、彼は夢と現実の区別がつかなくなってきた。 「……おやすみ、銀河」  自分の頭を撫でている手のひらが、少しぎこちないような気がした。  深夜三時。もう人の声はおろか、車の音すらしない夜、恋糸は一人、山を登っていた。 「……はぁ……ホント、体力……っ、落ちたな……」  恋糸の右手には、小さな花束があった。たまたま、コンビニで花を売っていたのだ。こういうものもあるべきだろうと、ビールと共に購入した。  しばらく歩いて、恋糸は、ようやく目的地にたどり着いた。そこは、山の中。ただの車道、曲がり道だった。車や人の気配はなく、ただ、鳥の鳴き声がする。  恋糸はガードレールに腰を掛け、空を見上げた。 「……ねえ、先生が死んですぐ以来じゃないですか」  恋糸はぽつりと言った。それから、花と、ビールの入った袋を地面に置いて、手を合わせる。 「……久しぶりですね、先生。……あは、今、行儀悪いって思ったでしょ」  恋糸はくすくす笑った。山道にも関わらず、かなり新しいガードレールの上に腰掛け、恋糸は楽しそうに花束の包装を解いていく。 「んいや……何言いに来たんだっけな……」  恋糸はぼそっと呟き、剥き出しになった花を地面に置いた。風が吹き、赤い花弁がひらひらと揺れる。彼が好きそうな派手な花だ。 「ああ、そういえば、久しぶりに写真を撮りました。もう撮らないつもりだったんですけど……銀河のおかげです。こうやって、ここに来て、いろんな奴と話もできました。すごいでしょ。成長でしょ」  恋糸は甘えたような声で、そう言ってくつくつ笑った。  風が吹き、花が地面を転がって、崖の下に落ちていった。恋糸は自分の髪を押さえつけるように手を当てて、俯いた。 「……ねえ、俺が銀河を好きだって言ったら、先生怒りますか」  恋糸は、少し震えていた。秋の寒さからか、自分の言葉で感情を吐露する恐怖からか、それとも、別の何かなのか。恋糸は、その震えをごまかすように笑った。 「あは、怒りますよね。かわいい銀河ですから。俺のこと、今ぶん殴りたいでしょ。ま、先生が殴ったところで全然怖くないけど」  恋糸はビールを地面から回収し、袋に戻した。 「……でも、貴方たちは、銀河を一人にしたんですよ。なら、貴方に俺を叱る権利なんかない」  恋糸はビール缶の二本入ったビニール袋を持ち上げて、くすっと笑った。 「ねえ、先生……、俺分かんないです。俺はまだ先生が好きなのか、それとも、本当に銀河が好きなのか……そんなことも分かりません。でも、銀河のことが欲しいんです。銀河の、あの綺麗な目が欲しい。俺のこと、俺のことを…………」  恋糸は髪をぐしゃぐしゃかき混ぜ、しゃがみこむ。 「……俺のことを見てほしい」  恋糸は俯いた。どうしても身勝手で、情けない。子どものような欲望を、いつまでもいつまでも手放せない。 「ねえ、先生……、どうしたら、先生みたいな良い大人になれますか」  恋糸の問いかけは、誰にも拾われることなく、山の中に消えた。  「先生」のことを初めてしっかりと認識したのは、大学にも少し慣れてきた頃。ある夏の日だった。  芸術学部二号館の建物に用事があった恋糸は、その日、その裏にある空き地を通った。ここは、普段憩いのスペースとされている場だ。しかし、憩いのスペースとは名ばかりで、ここで人が憩っているところを見たことはない。たまに、学生がこっそりタバコを吸っているくらいだ。  しかしその日、そこには、珍しく人影があった。それも、恋糸は彼に見覚えがあった。恋糸は驚いて立ち止まり、その人物を見つめた。  そこにいたのは、富谷という若い准教授だった。更に恋糸を驚かせたのは、彼が、優しい笑みを浮かべていたことだ。富谷といえば、いつもつまらなさそうに教壇に立ち、無気力にスクリーンを引っ掻いている男だ。そんな男が、携帯を片手に、信じられない表情で、誰かと会話をしている。驚きのあまり、恋糸は用事も忘れてそこに立ち止まり、彼が話し終わるまで、じっとその姿を見ていた。 「富谷先生?」 「……えっ、はい……」 「今、誰と話してたんスか? ちょー楽しそうでしたね」  突然話しかけられた富谷は、怪訝な顔で恋糸を睨んだ。その顔を見て、恋糸は、この富谷は本物だと思った。  彼は眉をひそめ、小さな声で言った。 「……家族です。遠くに住んでいる……」 「えっ。富谷先生って結婚してるんですか!?」  富谷は、今度は不快そうな顔をして頷いた。レンズの奥で、苦く目が細まる。 「意外! 指輪くらいしたらいいのに! え、子どもは?」 「います。息子が一人……」 「えーっ。知らなかった。先生、もっと奥さんとか子どもさんの話してよー。先生の授業退屈だよー」  恋糸はそう言って富谷に笑いかけたが、富谷はほんの少しも笑い返さなかった。 「……興味ない人間の家庭事情を話されて、貴方たち学生は楽しいですか?」  恋糸は、一瞬彼をめんどくさいと感じた。それは、彼が授業で常々感じていたのと同じ嫌悪感だった。実は、恋糸はこの富谷という教授が苦手なのだ。  勝手に壁を作られているような、なんとも耐え難い退屈感。彼の言葉を聞いていると、何もしていないのに叱られているような気持ちになる。簡単に言えば、愛想がないのだ。  しかし、そんな彼も、あんな顔で愛しい人と電話をするのだと知ると、俄然興味がわいてきた。恋糸は、たった今感じていた嫌悪感を拭うように、無理矢理笑った。 「少なくとも単調からは抜け出せますよー! 単調なもんってつまんないでしょ?」 「……『単調』は『美しさ』です」  富谷は真顔でそう言って、恋糸にまっすぐ向き合った。恋糸は腕を組み、富谷を見下ろした。 「…………へー、どゆこと?」 「例えば星は一夜では動きません。また、芸術は基本の型が決まっていて、それを押さえたものが美しく見える。だから、単調は美しさ。美しいものは、単調なんです。単調は、必ずしも悪いことじゃありません」 「はは、富谷先生の言ってることつまんねー」  恋糸は頭の後ろで手を組んで、退屈をアピールするようにため息をついた。  すると、富谷は突然一つ瞬きをして、恋糸の顔をまじまじ見た。 「……何スか?」 「……思い出しました。貴方、高崎恋糸ですね」 「えーっ、覚えててくれたのー?」  恋糸は驚いた。この、他人に微塵も興味がないという顔をしている男が、まさか自分のことを覚えていようとは。 「提出物に毎回講義の文句を書いて提出する学生がいると、平先生が仰ってました。私の講義にそんな学生はいないと言ったら、顔写真まで見せられて……」 「なーんだ……平先生かー」  恋糸は呟き、つまらなさそうに地面の小石を蹴った。覚えていてくれたのかと思ったのに、と、なんだか恥ずかしいような気持ちにもなった。 「まあ……、顔写真を見て、いると言えるくらいには認識しています。貴方はセンスがあるから」 「わかりますか!?」  恋糸の突然の大声に気圧されて、富谷は身体を縮こまらせる。恋糸は顔が千切れそうなほどにこにこ笑って、富谷に詰め寄った。 「俺、カメラ好きなんです! 世界を切り取って、自分だけの世界にしたみたいで。その人やものが、まるで、自分だけのもんになったみたいで!」  恋糸の言葉を聞いて、富谷はふっと微笑んだ。 「そう……好きなんですね、カメラ」  その顔に、恋糸はまた目を奪われていた。この人は、こんなふうに笑う人なのか。  ――もっと、見てみたい。  それは、自分でも情けないと思うほど、呆気なかった。 「……でも、貴方はただセンスがあるだけです。貴方の言う『単調』や『退屈』をしっかり学べば、貴方はもっと伸びる」  恋糸は目を数回瞬かせて、富谷を見上げた。 「俺にそれ、教えてくれますか、先生」 「……今期の授業で、かなり教えてるつもりですが……」  富谷は眉をひそめた。口の端がほんの少し持ち上がっていて、どうやら、苦笑しているらしい。口調が厳しいせいで怒られているのかと思ったが、呆れているだけのようだ。 「まあ、来年うちのゼミに来てくれれば、教えられることも増えますよ」  富谷は携帯を自分のポケットにしまうと、恋糸をまっすぐに見た。 「……しかし、貴方のセンスは本当に素晴らしい。誰よりもたくさんカメラに触れてきたんでしょう。努力家ですね」  その言葉に、恋糸は驚いてしまった。そんなことを言われたのは、カメラを手にして以来初めてだった。 「……『天才』以外の褒められ方したの初めて」 「……私には、貴方が努力家に見えたのでそう言いました。貴方は、私のつまらない授業を、きちんと理解できているから」  恋糸は、自分の胸が震えているのを感じていた。身体が幸せで満ち、頭から溢れてしまいそうだった。 「俺、結構真面目に話聞いてんスよ。嬉しいなー」  恋糸は笑った。彼に褒められたことが、驚くほど嬉しかった。  「高崎」 「分かってますよ、ここの明るさでしょ?」  大学四年、十月。恋糸は卒業制作に追われていた。 「俺はこっちのがいいんですー。不安感があっていいでしょ」 「駄目です。美しくない」  富谷はきっぱりと言い切って、写真を机に戻した。 「これも駄目なんですかー……? もう……一体いつ一枚目が決まんだよぉ……」  恋糸は机に突っ伏した。この頃、富谷と始めた卒業制作は、かなり難航していた。 「センスに頼りきりではいけません。貴方のセンスは所詮貴方の好きなものです。なんのための基礎か考えなさい」 「万人にウケたいんじゃねーし」 「……貴方のセンスは、貴方にしかウケないと言っているんです」  富谷の鋭い言葉に、恋糸は口を尖らせ、拗ねたふりをした。 「基礎を怠っているといずれどこかで行き詰まります。高崎、貴方、その通りにしなくてもいいから、人の話だけはきちんと理解して聞きなさい。貴方は学生で、私は教授ですよ」 「准教授じゃーん」  恋糸は子どものように口答えをしたが、富谷は表情一つ変えずに部屋から立ち去った。まるで、こちらの声など聞こえていないかのような反応だ。そういうところが学生から勘違いされるのだと、恋糸は頬を膨らませた。  部屋を出ていった富谷は、きっといつもの場所で、楽しそうに電話をしているのだろう。大好きな奥さんと、その子どもと。そう思うと、なんだか腹立たしい気持ちになった。 「……じゃんじゃーん…………」  恋糸はやや抑揚をつけてぼんやりとそう呟く。家族と話をしているときの富谷は、憎いほど嬉しそうな顔をする。恋糸は、不満を紛らわすかのように、くるくると椅子を回しながら歌いだした。 「准、准、准教授じゃーん……。准教授じゃんなー、じゃん、じゃん、なー」  だんだん楽しくなってきて、恋糸は歌いながら立ち上がった。首に下がったカメラを持ち上げ、鼻歌交じりにシャッターを切る。手ブレの酷い写真を何枚も連続して撮り、満足したら一枚ずつ消していく。まるで、初めてカメラに触れた子どものように、恋糸はカメラと戯れる。 「じゃじゃーん!」 「……は、馬鹿なことをしていますね」  その時、扉を開けたばかりの富谷が、恋糸を見て気の抜けた笑みを浮かべていた。恋糸は顔がかっと熱くなるのを感じながら、カメラを下ろした。 「卒業制作が行き詰まってるとは思えませんね」 「早かったじゃないですかー」 「子どもが、私と話したくないと言い出したそうです」 「あはっ。可哀想。ねー、もうそろ、子どもさんの名前教えてくださいよ。なにくん?」  教えたくないのか、富谷は首を振った。 「ねー。俺、先生と仲良くしてあげてるじゃないスかー」 「……私が、一番美しいと思うものの名前をつけました」 「えー。基礎くんか……。つまんないなぁ」 「違います」  富谷は、当てられまいという顔をしていた。なんだかそれが妙に悔しくなって、恋糸は口を開く。 「……じゃあ、恋糸かー」 「貴方はただ少し美男なだけです」 「えっ! 先生って俺のことイケメンだと思ってたの!?」 「美男でしょう」  恋糸は驚いて口をぽかんとさせた。彼がそんなふうに自分のことを思っていると思わなかったのだ。そもそも、この男が人間の見た目について少しでも考えるなんてと、失礼なことを思った。 「貴方は被写体にも向いています。いろんな人に貴方を貸せと言われました。……伝えましたよね」  なるほど、この男は、人間を被写体として見ているらしい。それならば、納得だと、恋糸は思った。何故なら、高崎恋糸は美しいのだから。 「だって、綺麗な俺を撮ったら、綺麗な写真になるに決まってるでしょ。それで賞が取りたいなんて、おこがましーわ」 「……貴方こそ、おこがましい」  富谷は小さく笑ってそう言った。最近知ったことだが、富谷は案外よく笑う。表情だって、ちゃんと見れば豊かだし、理解しようという努力さえすれば、彼の言葉の本当の意味も分かる。壁を作っていたのは彼ではなく自分だったことを、恋糸は思い知った。 「どうして私のときは被写体になってくれたんですか? この前、撮らせてくれたでしょう」 「だって先生の写真はここで一番だから。俺的に」 「私の写真が一番ですか……」  珍しく、富谷が苦い顔をした。恋糸は首を傾げる。 「……息子は、私の写真より貴方の写真が好きだそうですよ」 「え!? マジで? あんなに家に先生の写真あるのに? かわいそー」 「……貴方に家を見せたこと、ありませんよね」 「先生のパソコンの壁紙、家で撮った写真でしょ?」  恋糸は、富谷のパソコンを指差して笑った。富谷は、呆れたようにため息をつく。 「子どもには分かりやすいんでしょう。貴方の写真は素直だから」 「……馬鹿にしてません?」 「私が? しませんよ」  富谷はクスクスと笑い、コーヒーの入ったカップに手を伸ばした。カップには、子どもの描いた絵が印刷されている。去年の父の日に貰ったらしい。  恋糸は、愛されていて羨ましいと思った。 「ねえ、なんで一番美しいものの名前にしたんですか。名前つけるとき、優しい人になってほしいとか、賢くなってほしいとか、あるじゃん、いっぱいさ」 「……将来、あの子を愛する人が、一番口にする言葉だからです」  恋糸は、思い切り首を傾げた。 「愛する人が自分を呼ぶ響きは、限りなく美しいほうがいいでしょう」  正直、富谷のこういうところは、恥ずかしくて尊敬できない。恋糸は肘をつき、この純情に溢れたロマンチストに呆れて笑った。 「……先生って奥さん大好きだもんなー。今度来るんでしょ、こっちに。あ、そのときに子どもさんと奥さん見せてくださいよー」 「嫌です。……それに、息子は来ませんよ」 「なんで?」 「風邪をひいたそうです。さっき、行けないことが分かって不貞腐れていました」 「あは、楽しみだったんだろうなぁ、可哀想に」  だから、電話をしてくれなかったのだろう。恋糸は、その子どものことを可哀想に思い、苦笑をこぼした。 「じゃあ、奥さんと二人かー。何するんスか」 「山に星を見にいきます」 「ああ。つか、先生、星撮るの好きですねー」  富谷は笑った。恥ずかしそうに口の端を持ち上げるその笑い方が、好きだった。  「……恋糸さん」 「お、来た。土産買えたか?」 「ス」  ガサガサと袋を揺らしながら、銀河が小走りでやってきた。銀河は恋糸にぶつかりそうな勢いでやってきて、ぶつかる寸前で止まった。 「これ、後で食べたいです」 「あ、お前……そういうアホみたいなのは大抵不味いんだぞ」  銀河が恋糸に見せたのは、ご当地グルメ味のお菓子だった。恋糸は苦笑をこぼしたが、銀河は満足そうだった。 「俺、味音痴だから大丈夫ス」 「お前っ、俺の飯散々うまいうまいって食っといて……!」  銀河の頭を小突くと、彼はけらけら笑った。しばらく戯れていると、恋糸のビニール袋が銀河の身体にぶつかった。銀河は目を瞬かせ、首を傾げた。 「……恋糸さん、ビール買ったんですか?」 「ん? ああ、違う、違う。いや、買ったけど、帰るまでは飲まねーよ。ちゃんと銀河を送り届けなきゃだからなー」  銀河は不思議そうな顔で恋糸を見上げていた。 「いスよ」 「駄目駄目。俺、酒強くねーから、銀河、帰れなくなるぞ?」 「俺、一人でも帰れるス」 「悲しいこと言うんだなー。俺と一緒に帰ろうぜー、銀河」  銀河は、擦り寄ってくる恋糸を、若干うざったそうにした。 「……恋糸さんと来たんだから、ちゃんと恋糸さんと帰るスよ」 「あはっ、いい子だなぁ」  恋糸は銀河の頭を撫でた。銀河は少しだけ頬を染め、嬉しそうな顔をした。 「あ、そうだ。これ、俺から銀河ん家に」 「いんスか」  恋糸は頷き、袋の中身を銀河に見せた。大したものではないが、大人として恥ずかしくない額のものを買ったつもりである。 「帰るとき持って帰れよ。……あと、これは銀河に」 「何スか」 「アルバム。お前のな」  十枚程度の写真しか入らない、薄っぺらなアルバム。しかし、装丁がかなり凝っていて、あちこちがキラキラと輝いている。  銀河はそれを受け取ると、嬉しそうに目の高さまで持ち上げた。 「なんか、お前にも記念に買ってやろうと思ったんだけど……、お前の好きなもん、これ以外分かんなくてさ」 「……ありがとうございます」 「お前用のアルバムってなかったからな。まあ、ちょうどよかったんじゃないか?」 「写真ください」 「いいよ」  恋糸がそう言うと、銀河は嬉しそうに笑った。 「……俺のアルバム」 「そうだよ。銀河のアルバムだ」  銀河は、アルバムを空に掲げた。黒い瞳がキラキラ輝いて、頬が紅潮した。 「……嬉しいス。ありがとうございます」 「……安物だぞ」 「けど、恋糸さんがくれたアルバムスから」  銀河は、大事そうにアルバムを抱え込み、胸に押し当てた。恋糸は銀河の頭を撫でる。その嬉しそうな顔に、嘘偽りなく、心が満たされた。

ともだちにシェアしよう!