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第6話「美しいもの」

 「おい、だから高崎」 「うるッせぇな! 俺は辞めたって言ってるだろ」  恋糸は男を突き飛ばし、玄関から外へ押し出した。男はよろめき、恋糸を睨み上げる。恋糸は、制止する男の声を無視して扉に手をかけた。扉が閉まりきる直前、男は無理矢理腕をねじ込んできた。 「お前……ッ、何なんだよホントに!」 「何って、高崎、俺は!」 「お前は、俺をいいようにしてぇだけだろ!」 「あの」  突然、すぐ側から聞こえた声に、喧嘩に夢中になっていた二人は固まった。 「……お、お届け物ですが……どうされますか?」  声の主は、銀河だった。彼は、やや緊張した面持ちで、恋糸を見上げた。恋糸は眉間に皺を寄せたまま銀河を見下ろし、玄関先にいた男を突き飛ばした。 「どけ」  機嫌の悪そうな恋糸は、さらさらと雑にサインを書いて、銀河から荷物を受け取った。銀河はおずおずと恋糸を見上げる。普段の数倍治安の悪い表情の恋糸は、目の前の銀河よりも、後ろに立っている男に意識が向いているようだった。 「……恋糸さん」  銀河は小さな声で呟いた。帽子の下で不安そうに揺らめいている瞳を見て、恋糸は銀河の頭に手を伸ばした。 「悪いな銀河。また来いよ」  ガタンと大きな音を立てて、恋糸は部屋の扉を閉じた。閉め切られた扉を見ていると、言いしれぬ寂しさが銀河を襲った。  配達を済ませ、階段を降りても、銀河はその寂しさを消化できずにいた。  先程の彼は、まるで、知らない人のようだった。彼も、あんな顔をするのか。銀河は先程の恋糸の姿を信じられずにいた。心臓が、まだばくばくと音を立てていて、足元がふらついた。 「なあ、なあ、君!」  突然腕を捕まれ、銀河はびくっと飛び跳ねる。驚いて振り返ると、そこにいたのは、先程恋糸に追い返されていた男だった。 「ちょっといい!?」 「……あ、あの、何か……」 「高崎の話なんだけどさ!」  男の言葉を聞いて、銀河は口をきゅっと結び、首を振った。 「……え、えと……、スマセ……、俺……仕事中なんで……」 「ああ! 待ってる待ってる! 何時に終わる?」 「いや……えっと、あの……」  完全に俯き、男のことを遮断してしまった銀河の姿を見て、彼は苦笑する。男は、銀河の腕を掴んでいるのとは反対の手で自分のポケットを漁り、一枚名刺を取り出した。 「あー……俺、カメラマンの橋川! 駅前の茶茶って喫茶店知ってる? 今日そこにいるから」  銀河は、おずおずとその名刺を受け取る。それを見て、彼はようやく銀河から手を離すと、銀河に向かって作り笑いを浮かべた。 「思い出したら来て! 奢るよ」  銀河は何も言わず頭を下げ、そそくさとその場を後にした。  夜七時十五分。銀河は、呼び出された喫茶店の前でため息をついた。  行かなくてもよかったが、呼ばれたからには行くしかない。小さな子どもでもないし、誘拐されるなんてことはないだろう。それに、何かあったら逃げて帰ればいい。――そんなことをぐるぐる考えながら、銀河は重たい扉を開けた。 「……ああ、君! こんにちは! もうこんばんはだけどな。改めて、俺、橋川洋。カメラマン」 「…………えっと……」 「あ、いいよ全然! 座って座って!」  何に対しての「いいよ」なのか銀河は分からず、一瞬で、帰りたいという気持ちが喉まで込み上げた。しかし、いち知り合いとして、恋糸の話をしたいというと、話をせずには帰れないだろう。  洋は自分の机に銀河を呼んだ。銀河は、おとなしくそこまで歩いていくと、彼の正面に座った。店には他に客の姿はなく、店員らしい男性がカウンターのそばに一人と、奥の厨房に女性が一人いた。 「何食べる? 好きなのいいよ」 「……あの、貴方は……どういう」 「高崎の大学の同期」    意外な言葉に、銀河は少し目を見開いた。 「驚いたよ! 君みたいに高崎に好かれてる奴は久しぶりに見た。高崎は、ほら……美人だからさ」 「……そうスか……」 「それで、何が食べたいの?」  突然、急かすように尋ねられて、銀河は慌ててメニューに目を落とした。  どれも美味しそうだが、今は、頭で何も考えられない。緊張と居心地の悪さで、自分がどの程度腹を空かせているかさえ分からなかった。どうすればいいのか必死になって考えていると、しびれを切らした洋が、銀河からメニューを取り上げた。 「何でもいい? テキトーに頼むよ。アレルギーある?」 「な、ないです……」 「オッケー」  洋は店員にてきとうなものを注文し、少し会話を挟んで再び椅子に座り直した。銀河はその一連の流れをぼーっと眺め、また俯いた。 「君、高崎の何?」 「え……『何』……?」 「まあ、高崎の好きそうな顔だけど……まさか恋人じゃあないだろうし。親戚?」 「え、えっと……俺……俺は……」  銀河はうろたえた。最も近い言葉は、「友だち」だろう。しかし、銀河は恋糸のことをただの「友だち」だとは思っていないし、恋糸が銀河のことをどう思っているのかは分からない。  何と言うべきか迷っていると、洋がため息をつきながら、机に肘をついた。 「まあ、言いたくないならいいよ」  洋は、はっきりとしない銀河にだんだんと腹が立ってきたのか、作り笑いを浮かべていた。その顔を、銀河はよく知っていた。自分を引き取った親戚が、自分を見るときの顔だ。  銀河は、きゅっと拳を握りしめて、姿勢を正した。 「あのさ、高崎の撮った写真、見たことある?」 「……あ、あります……」  銀河が答えると、洋は勢いよく机を叩いて身を乗り出した。 「そう! そうか! な、アイツは天才だよな!」 「……天才……とかは……、分かんねスけど……」  銀河はおどおどとそう言い、胸のあたりに手を握った。 「でも、恋糸さんの写真好きス」 「いいよなぁ、若い子にも分かるかぁ」  洋はタバコに火をつけ、にこにこと気味悪く笑った。 「……俺はさ、アイツにもう一度写真を撮ってほしいわけよ」 「恋糸さんに……写真を」  銀河は気になって顔を上げた。  洋はタバコの煙をふわふわと口から吐きながら、にやりと笑った。 「そう。だから、今日はアイツに仕事をもってきてやったのに、突き返されちまってさ」 「仕事……」 「旅館の仕事なんだ。有名な旅行雑誌に載る予定」  銀河は何度か瞬きをして、また俯いた。恋糸の写真は、たしかに素晴らしい。仕事が舞い込むのは素敵なことだ。しかし、彼は今、写真を撮ることができない。何があったって、今の恋糸が、仕事を引き受けるはずがなかった。  彼がいったいどういうつもりで仕事を持ってきたのか、銀河は分からずにいた。 「アイツもそろそろ復帰しないと。そりゃ既に功績はすごいもんだが、いつまでも過去に突っ立ってちゃ、プロとは言えないね」 「……そうスか」  銀河はてきとうな返事をして、机の木目をじっと見ていた。煙たくなってきた店内は、やや居心地が悪い。恐怖に似た感情が湧いてきて、今すぐここから帰りたいという気持ちがいっそう強まった。 「な、君。高崎の写真が見たいだろう。どうだろう、俺の代わりに頼んでみてくれないか」 「えっ……。俺が……スか?」 「君の頼みならきくと思うんだ。アイツ、そういう奴だから」 「でも、俺……」 「頼むよ、な」  洋は銀河の手にちいさな紙を握らせると、包み込むように指を折らせ、その上に自分の手をそっと乗せた。  その指先は、銀河の白い手首を滑り、ゆっくりと腕を包む。銀河は、恐怖で胸がいっぱいになり、もう腕を引っ込めて、今すぐ帰ろうと思った。  しかしその時、静かだった喫茶店に、突然男が飛び込んできた。彼は二人の方へつかつかと近づいてきて、銀河の腕を引っ張ると、その傾いた身体ごと抱き込んだ。 「あ、おい」 「……銀河に何してんだ。何話した」 「…………恋糸さん……」  その男は恋糸だった。彼は、銀河の身体を守るように腕を回すと、洋を睨んだ。 「食事してただけだろ。まあ、少し待てよ、今から料理が来るからさ。彼には、今日言ってた仕事の話してたんだよ。……銀河くんって言うんだ? 銀河くんもお前の写真が見たいってさ」 「ペラペラ要らねぇことばっかり喋んな。俺は今は撮らねぇ」  恋糸の声は普段より低く、威圧的で恐ろしかった。胸に響く低い音を耳元で聞きながら、銀河は目を瞑った。 「……いつまでも過去の栄光に縋ってちゃいけねぇよ。高崎は天才なんだから。お前には一番である責任がある」 「お前こそ、いつまで過去のこと引きずってんだ」  洋の顔が、一瞬引き攣った。恋糸は、低く淡々と、しかし確かに怒りを持って話を続けた。 「……あの時、俺の写真が誰のものよりも優れているとされた。そしてお前は選ばれなかった。そんな、たったそれだけのことを、お前一体いつまで引きずってんだ」  銀河は怖くなって、ぎゅっと強く目を瞑った。だんだん荒くなる恋糸の声は、微かに震えているように聞こえた。 「……『たったそれだけ』? お前、自分が何したか分かってるのか」 「俺は何もしてねぇよ」  恋糸は、まるで、腕の中にいる銀河のことをまるっきり忘れているかのように、荒い手つきで銀河に触れていた。銀河は、このとき何故か唐突に、恋糸が大人であることを理解した。 「お前のやりたいことは分かってんだよ、橋川。この仕事で、俺に写真家を辞めさせたいんだ、そうだろ。お前は今の俺に、クソみてぇな写真を撮らして、俺を殺してぇんだ」  恋糸はぎゅっと腕に力を込めた。それは無意識のようで、銀河は恋糸の腕の中で、小さく彼の名前を呼んだ。 「この仕事で、お前の望み通り俺が写真家を辞めたってなぁ、お前は誰かの一番になんかなれやしねぇよ……っ、だってお前は……」 「じゃあ撮れよ!」  洋が、突然大声で叫んだ。今まで痛いほど力の入っていた恋糸の腕が、一瞬緩まった。 「……写真家辞めんだろ、なら、クソみてぇな写真でもなんでもいいだろうがよ……ッ。さっさと撮って潔く死ね、高崎恋糸! 邪魔なんだよ、お前が俺の上で、ぼーっと突っ立ってんのがよ!」  洋は立ち上がって恋糸の胸ぐらを掴んだ。恋糸は銀河から手を離し、洋を見下ろした。 「…………お前は、俺より上なんだぞ。自信がないなんて、写真が撮れないなんて……、そんなのは俺への侮辱だ。撮らねぇくせに、お前いつまで写真家のつもりなんだよ!」  彼はそう言って、恋糸の身体を突き飛ばした。洋の手が胸ぐらから離れると、恋糸は銀河の腕を掴んで優しく引っ張った。 「……帰ろう、銀河」 「え、あ……」 「ごめんな、巻き込んで」  精一杯の優しい声で、恋糸は銀河にそう笑いかける。銀河は恋糸のことを、このとき初めて、怖いと思った。 「高崎」  洋は、荷物を持って立ち上がった。 「俺が帰る」  そう言って、洋はさっさと金を払って帰っていった。銀河は、洋から何か渡されて以来ずっと握り続けていた自分の手を、ゆっくりと広げた。そこにあったのは、名刺だった。彼から名刺を貰うのは二枚目だ。銀河はそれを、手荒くズボンのポケットにしまうと、そのまま俯いた。  恋糸は、銀河の前の椅子に座って、気まずそうに微笑んだ。 「……銀河、何頼んだの?」  恋糸はその時、極力優しげに尋ねたつもりだった。しかし、そうして尋ねても、銀河は俯いたまま答えなかった。 「…………銀河?」 「分かんねス……。俺……頼んでないんで」  恋糸は、そっか、と笑った。銀河は笑い返さなかった。 「ごめん。怖かったな、銀河。……あいつは……ちょっと俺のことが嫌いすぎる奴でさ。昔っからああなんだ。俺も、あいつが嫌いだから、つい喧嘩しちまうんだ」 「……じゃあ、なんであの人、家から出てきたんスか」  恋糸はびくりと跳ねて固まった。彼は目を左右にちろちろと動かしながら、口を震わせていた。  そんな恋糸の様子を見て、銀河は、子どものようなことを言ったと、少し反省した。あそこまで嫌っている人間ですら、彼は家に入れるのだ。あの家に。俺の居場所に。それが、ほんの少し、ほんの少しだけ嫌だった。  銀河は目を伏せ、小さく首を振った。 「やっぱいス……。知ったって、意味ないし……」 「……銀河、俺はな……」 「……恋糸さん、もう、写真撮らねんスか」  弁明しようとした恋糸を遮って、銀河が、ぽつりと言った。 「嫌いですか」  銀河は尋ねた。恋糸はまた、固まって動かなくなった。彼は苦しそうな顔で何か言いかけて、しかし何も言わず、ゆっくり目を伏せた。 「……恋糸さんが……カメラを嫌いなんじゃなくてよかったス」  恋糸は驚いて顔を上げた。銀河は恋糸を見つめ、首を傾げていた。  その時、つかつかとこちらへ店員が歩いてきた。彼女は、先程の騒動を気にしているのか、やや怒ったような顔をしていた。 「おまたせしました」 「……あっ、店員さん、さっきはすみません、うるさくて」  恋糸はにこりと笑った。その美しい愛想笑いに、怒りをうやむやにされた店員がおとなしく去っていく。店員の姿が見えなくなると、彼はすぐ笑顔を消した。 「……俺は天才なんだって」  ため息まじりに、ぽつりと呟かれたその声が、あまりにも寂しそうで、銀河は恋糸を見つめた。 「勘が良くて、感性が鋭くて、表現方法の理解も早かった。子どもの頃からカメラを持ち歩いていて、神童と呼ばれて、いろんなところで賞を取った」  恋糸の瞳が微かに揺らめき、声は震えていた。それをごまかすように、恋糸はさも面白そうに笑った。 「そりゃもう、総ナメ。俺に敵なんかいなかったね」  恋糸はそう言って、一つ瞬きをした。睫毛の下で瞳が揺れ、悲しそうに下を向いた。 「でも、俺だって行き詰まることもあるさ。それが、誰かにとって、ものすごく不快なことだったとしても、俺にだってどうしようもない」  恋糸は肘をつき、眉をひそめた。 「才能がある人間が、自身の実力不足に悩むのは、他者を蔑むことになるのか? 金のある人間が、高級品をもっと買いたいと悩むのは、意味のない贅沢なのか? 勉強のできる人間が、自分の無知に悩むのは皮肉なのか?」  縋るように、答えを求めるように、恋糸は銀河に目を向ける。食べ物を口に運ぼうともせずに、ただ話を聞いてくれている銀河の姿が、恋糸の目に入った。 「……俺は分からない。だって、俺は俗に天才と呼ばれる男で……今まさに悩んでいるから」  恋糸は頭を抱えて俯く。 「……もう、何が美しいもんなのか、俺には分かんねぇんだよ」  恋糸の口から、涙のように言葉がこぼれていた。銀河は、その言葉をすくい取るように、恋糸の手を握った。 「……恋糸さんの写真は……綺麗スよ」  恋糸は何も言わず、何の反応も示さなかった。銀河は困ったように眉を下げ、両手に力を込めた。 「俺……恋糸さんが何に悩んでんのか分かんねぇし……何の話も聞かされてねぇし……だから、そういうこときかれても、何て言ってほしいのか分かんねス」  銀河は小さな声で、囁くように言葉を紡ぐ。嘘偽りのない、本物だけを、鮮明に。 「……けど、美しいものなら分かるスよ。恋糸さんの写真は……綺麗ス」 「……へえ、そう」  恋糸は、子どものようにいやみったらしくそう言った。銀河が世辞など言わないことは分かっていたが、それでも、ここでそうしないと気が済まなかった。  可哀想に、銀河は恋糸の圧に萎縮して、少し小さくなった。けれど、それでも彼は、目をそろそろさせて次の言葉を探していた。 「俺は……、恋糸さんの写真、はじめて見たとき……、この人、素直な人だと思いました。カメラ、好きなんだなって……」  銀河はそう言って、一度深呼吸した。 「……子どもみたいに素直にものを見ている、センスのいい人だと思いました。……だから、た、多分、小さい頃から、ずっとカメラが好きで、頑張ってきた……一途な人なんだと……思って」  緊張から、頬は赤らみ、舌は何度も言葉を跳ねさせた。不格好に跳ね留まるその言葉を、恋糸は黙って聞いていた。 「なんて言ったらいいんスか……。えっと、俺は……、俺は、恋糸さんの写真が好きス。……写真、全然、詳しいこと分かんねけど……好きです」  銀河は、身を乗り出して、自分の胸に、彼の手を引き寄せた。恋糸の指先がびくりと跳ねる。 「恋糸さんの写真は、だから、綺麗なんです」  恋糸は、目を伏せたまま、椅子の背にもたれかかり、ため息をついた。銀河は恋糸の手を握ったまま、おどおど首を傾げた。 「……そんな、熱烈な告白しなくても、お前が俺の写真が好きなのは知ってるよ……」  恋糸は飽きれたようにそう言って、銀河の手をするりと払った。その指先で銀河の顎先から頬をなぞり、彼は立ち上がる。 「…………銀河、こっち向いて」  甘い声に、銀河はドキドキしながら顔を上げた。恋糸が、かすかに微笑む。  その時、カシャッという音がして、銀河は飛び跳ねた。 「な……っ」 「撮れた……」  恋糸は、ぼんやり呟いた。彼の目が、驚きに見開かれる。彼の手にはスマートフォンが握られていて、そのレンズは銀河を向いていた。 「恋糸、さ……」 「あは。なんだ、悪くねぇじゃんなー……」  恋糸は、飽きれたように苦笑をこぼした。細められた目からは、一粒光が溢れた。 「ああ、馬鹿みてぇ……馬鹿だなぁ……。当たり前だよな……。まっすぐ見てくれる奴くらい、もうここにいんのになァ……。何が正しいか分からねェなら、もう撮るしかねぇんだよなぁ……」  恋糸は銀河の頭を荒々しく撫で回した。頭を無理矢理揺らされた銀河は、その間、大人ぶって、そっと目を瞑ってあげた。 「だって、迷ったって分かんなくたって、俺は、好きなんだから……」  手が止まって、銀河はこっそり目を開けた。恋糸の赤くなった頬に涙が落ちるのは、美しかった。 「……ハッ。あの馬鹿、何も分かっちゃねぇ。俺に、『潔く死ね』だなんて」  強がる彼を、銀河は柔らかい特別感に包まれながら見ていた。恋糸は携帯をきゅっと握って、袖で目元を拭った。 「カメラさえあれば、写真家は死なねーんだよ」  恋糸は銀河をちらりと横目で見て、恥ずかしそうに笑った。

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