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 二人はロス支局へ戻ると、そこでミリアムと合流した。  パトリックもいて、捜査が終了し、ワシントンへ引き上げる旨を伝えた。あとはロス支局が引き継ぐことになった。 「大きな怪我でなくて良かったわ、トラヴィス」  ミリアムはトラヴィスが現れると、安心したように抱きしめた。 「神様に嫌われているんだ」  トラヴィスもミリアムと抱き合う。その視線が誰かを探すように辺りを一周した。 「ジェレミーはどうした?」  ヒースもこの場にいない捜査官に気がつく。 「もう本部に帰ったわ。アリスンの命令よ」  ミリアムはトラヴィスを見上げた。 「でも、その前にレイジーに会っていくと言っていたわ。ロス市警で会わなかった?」 「いや」  トラヴィスは素っ気なく返事をした。  ヒースがやれやれというように肩を鳴らす。 「相変わらずエリートはスケジュールがタイトだな」 「仕方がないわ。アリスンの部下だし。どうも、厄介な事件が起きたようね」 「カリフォルニアまで来ることもなかったんだ、あの馬鹿は」  トラヴィスは刺々しく毒づいた。ミリアムとヒースが顔を見合わせる。 「機嫌が悪いね、トラヴィス」  パトリックは戻ってきた部下の様子がおかしいことに気がついた。 「何か不満でも?」 「俺は納得できない、リック」  トラヴィスはバケツに溜まった水をぶちまけるように吐き出す。 「こんな形で解決するなんて、何かを見落としているような気がする」 「何を見落としていると?」  トラヴィスは具体的に考えた。灰色の煙のようなものが、頭のなかで何重にも渦巻いている。それを掴もうとしても、空振りするだけだ。 「君は、あやうく銃で撃たれるところだった。そのショックを引きずっているんじゃないのかね?」 「俺はアカデミーで地獄のような訓練に生き残ったんだ。そんなヤワじゃない」  トラヴィスは心外だというように口調を荒くした。  パトリックは苦笑した。 「そう、十分承知しているよ、トラヴィス。君は人類が滅ぶと聞いても、平気で生き延びることを考えるだろう」 「まあね」   トラヴィスは誉められているのか(けな)されているのかわからなかった。 「この事件の犯人は逮捕された。誘拐された少年も無事に保護した。あとは検察の仕事だ」  パトリックはトラヴィスへ説明するような口調になる。 「証拠も十分だ。事件の共謀者は、司法取引で全てを証言してくれる。誘拐された少年もだ。検察の求めに応じて、裁判で証言するだろう。犯人のそばにいて、事件を目撃していたのだから」 「それは、そうなんだが……」 「犯人の目的は、アメリカへのテロ攻撃。それは少年へ送ったメール内容でも証明できる。違うかね?」 「その通りだ、リック」  トラヴィスは首をすくめて同意する。 「君は、最初にこう言ったね、今回の事件は子供のイタズラだと」  パトリックはまるで部下の不満をわかっているかのように、落ち着いている。 「子供のイタズラとは、とても象徴的な言葉だ」  意味ありげに、口元に笑みを見せる。 「たとえイタズラでも、証拠があれば、それは明白な犯罪だ。事件を起こした者が罪を問われるのは、当たり前だろう。他の誰でもない。事件を起こした当事者自身がね」 「……リック?」 「つまり、そういうことだ」  トラヴィスは――ミリアムやヒースも、その言葉の真意に、敏感に反応する。  だがそれ以上、上司は語らなかった。 「さあ、事件は解決した。帰ろう、ワシントンへ」  その夜、ホテルで着替えをしていたトラヴィスは、トントンとドアをノックされて、舌打ちしながらシャツをベッドに放り投げた。本来だったら、もうカリフォルニアを発ってワシントンへ向かっている最中なのだが、どういうわけか飛行機の予約の手配がトラヴィスだけ翌日に回されていて、本人は何度も確認し抗議したが、あいにく満席で予約は覆らず、信じられないことに他の便も全て座席が埋まっていて、仕方なく一人ホテルへ戻った。勿論、あとの三人は機上の人である。     ホテルのフロント係は再び現れたトラヴィスに、可哀想にというオーバーなジェスチャーを交えながら、空いている部屋のキーを渡した。それはダブルだったが、その部屋しか空いていないと肩をすくめられて、くそったれと思いながら受け取った。 「寝ているぜ!」  トラヴィスは不機嫌にドアを開けた。こんな夜にどこの馬鹿野郎だと思ったが、現れた人物に驚いた。そこにいたのは、とっくに本部へ帰ったはずのジェレミーだった。 「……お前も飛行機がハイジャックされたのか?」  トラヴィスは思わず言った。突然の登場に少々面食らったが、当のジェレミーは構うことなく部屋へ入ると、鍵をかけた。 「飛行機の予約が明日になっていた。帰れないから泊めてくれ」 「……冗談だろう?」  だがジェレミーはそ知らぬ顔で、トラヴィスを通り過ぎる。 「部屋はダブルだから、私も泊まれるだろう?」 「……おい、まさか……」 「私は治安を守る連邦捜査官だ」  ジェレミーは振り返って、トラヴィスの疑念を打ち払うように言った。 「それより、怪我は大丈夫か?」 「……ああ、前よりセクシーになった」  どう考えても二人揃って同じ理由で足止めとはおかしいのだが、トラヴィスは深く考えるのをやめた。正直、ジェレミーに会えたのは嬉しかった。 「すぐに治るさ」  トラヴィスはベッドに転がっているシャツを手に取る。 「トラヴィス」  ジェレミーはベッドに腰を下ろし、トラヴィスを見上げると、腰に腕をまわして引き寄せる 「おい……」  忙しいんだと言いかけたトラヴィスを自分へ屈ませると、文句の多い唇を塞いだ。背中にも腕をまわし、しばらくキスする。

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