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第四話⑧

 ――昼休みは昼休みで大変だったな……  相談室でコンビニ弁当を食べようとした一成の前に「先生!! 聞いてください!!」と文字通りドアをぶん投げる勢いで現れたのは三年生の宇佐美だった。その海坊主が人になったようなガタイを見た瞬間、一成は椅子の上で仰け反った。宇佐美はドデカい声で喋りはじめて永遠に話が終わらないと、吾妻学園では人気ユーチューバー並みに有名な生徒だった。一成は背後を振り返り、後ろのソファーに座っていた順慶(じゅんけい)に身代わりになってもらおうとした。三年生なので三年生を受け持つ教師が応対するのが筋だろう。と、思ったのだが、驚いたことに順慶の姿は忽然(こつぜん)と消えていた。ドアが開きっぱなしになっていたので、忍者のような素早さで逃げ出したのだろう。一成は苦虫を嚙み潰したような顔になったが、宇佐美のご指名を受けた自分も押しつける気満々だったので、どっちもどっちだと諦めた。そんなくたびれた気持ちなど宇佐美には当然関係がないので、昼休み中、廊下にまで響き渡る大音量で「俺彼女とデートするんです!!!」という一言で終了する話を延々リピートされた。  ――俺はよく我慢して聞いていたな……  その後疲弊(ひへい)した一成は、何とかかんとか午後の授業をやり遂げて、放課後の業務も無事にこなし、うるさい先輩ズに無駄に絡まれる前に職員室を辞して帰ろうとしたら、相談室で雲隠れした順慶が柔道着姿で現れて「理事長が呼んでいるぞ」と伝えに来た。昼休みの件もあったので、一成は露骨に嫌な顔をして拒否ろうとした。が、ただの雇われ教師が権力者の命令に逆らえるわけがない。相手は叔父だが、むしろ身内にこそ容赦がないことは実体験で知っている。仕方なしに理事長室へ向かったが、用件は「最近、何かなかったか」だった。何があるんだと一成は噛みつきたくなった。この前から馬鹿のひとつ覚えのように聞いてくる。「何があったら叔父貴は喜ぶんだ」と皮肉半分に聞き返すと「愚か者、何もないことが正しいのだ」とわけわからん言葉が返ってきて、理事長室を退去した時、扉の脇に設置している自分の母親を描かせた絵画ドアホンを拳骨でぶっ叩きそうになった。  ――これでようやく帰れると思ったが……  理事長室を出た足で教員用駐車場へ行き愛車のエンジンをかけたら、信じられないことにかからなかった。数回エンジンスイッチを押したり、長押ししたりしたが、フェアレディZはウンともスンとも言わなかった。原因はもちろん不明で、ディーラーに連絡をして翌日引き取りに来てもらう予約をしてから、歩いて帰ることにした。  ――災難というか、踏んだり蹴ったりというか……  ある意味グランドフィナーレな一日の幕引きだった。

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