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第五話①
「お、一成」
昼休憩時、図書室のドアを開けて入ると、テーブル席にいた七生が気づいて顔を上げた。背の高い男子生徒と文庫本を片手に話をしていたようで、一成が現れると、その生徒は「また来ます」と言って七生から文庫本を受け取り、一成と入れ違うように出て行った。
「なんだ、気にすることはないぞ」
一成は閉じられたナチュラルカラーのドアに向かって洩らす。今の生徒は自分が担任するクラスの子だ。鷹羽 遼亜 。バスケ部に所属している。物静かだが、大人しいわけではない。
「本の話をしていたんだ。ちょうど解釈が一致したところだから大丈夫」
七生は軽く手を振る。
「盛り上がって、つい話し込んじゃって。悪いことしたよ。お昼休みなのに」
と言いながらも、色気たっぷりの男振りがいい顔が隅々まで笑顔になっている。よほど嬉しいんだなと、親のような気持ちで一成は見守る。おそらく本好きモード全開で感想を喋りまくっていたのだろう。ただ遼亜がそんな七生の相手をするくらいに本を読むとは初めて知った。
「良かったな、七生」
「うん」
七生は少年のように頷く。
「この間の一成が羨ましくて。俺もそういうことをやって欲しいなって思っていたら、すごく本の趣味が合う生徒がいてね。結構図書室を利用してくれる子だったから、活字が好きなんだろうなとは思っていたんだ。確か一成のクラスの子だったかな」
「そうだ。そんなに図書室を利用しているとは知らなかった。本が好きなんだな」
「そうなんだよ」
饒舌 に語る口調はとても熱い。
「その子が借りた本がミステリーで俺も面白かったから、なにげなく声をかけたら話が盛り上がったんだ。すごく楽しかったし、幸せだった。わかる? 一成? カクテルを飲みながら空を飛びたい俺の気持ちが」
「良かったな」
なぜカクテルを飲みながら空を飛びたいのかは理解できないが、気持ちが舞い上がっているのはよくわかった。下手なことは口が裂けても言えない。良かったなという言葉が一番ベターである。
一成はそっと周囲を見回す。図書室にはそれなりに生徒たちがいるが、みんな静かだ。自分と七生の会話が静寂な空間にノイズを発している。図書室は基本私語厳禁なので、図書室司書が率先してルールを破っているのは大変によろしくない。でも仕方がないだろうと高校時代からの友人は思う。オタクは推しを喋り始めたら止まらないのだから。
「そうだ、一成にもその本を勧めようと思っていたんだ。ちょうどあの子が返却してくれたから貸すよ」
七生は返却棚から文庫本を一冊持ってくる。
「ほら、深水 先生の最新作だ」
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