57 / 61

幕間 出会う①

 昼休みになり、いざ図書室へ来たが何を手に取れば良いかわからない。  一緒に来た七生は「俺は今、生息界隈がオカルトなのよ!」と叫んで違う棚の通路へ行ってしまった。  取り残された一成は、恨めしそうに図書室の奥の棚に並べられてある厳めしい本の壁を見上げる。この春吾妻学園に入学して高校生活が始まったが、どの教科でもそれなりに勉強はできたが、苦手な科目があった。日本史、世界史などの地理歴史科である。  一年生の科目は日本史だが、一成はとんと頭に入ってこなかった。歴史的出来事もその名称も人の名前さえも記号や暗号に見えてしまう。これが物理や化学なら平気なのだが、歴史となるとどうにも苦手意識があって覚えられない。  すると、担当教師の寧々子はある助言をしてくれた。 「小説を読む感覚で歴史を学んだらどうでしょう。そうですね、取っつきにくさをなくするために、まずは歴史に関係する本で、自分が面白そうだと思った本を借りてみてはどうですか?」  温和で丁寧な言葉遣いの先生に半分素直に従って図書室へ向かった。の、だが。  ――わからないぞ。  何が面白そうなのかが皆目わからない。  歴史関係の書籍といってもいっぱいあり過ぎて、まず本棚のどこからどこまでが該当ジャンルなのかがわからない。試しに目の前の一冊をと思ったが、「人生は失敗ばかり~歴史の誤算列伝」という本のタイトルを見て、伸ばした手を引っ込めてしまった。  ――やめた。やっぱり無理だ。  まさしく広大な海にただ投げ込まれたような感覚で、一成はもうお手上げ状態になった。  ――綾辻先生には無理だったって言おう。  そうだ、それがいいと一成は一人頷いて、図書室を去る理由にした。本だらけの棚を眺めていたら頭が痛くなってきた。  ――あいつ、どこ行ったんだ。  クラスで席が自分の後ろだった七生とは、最初に会話をした相手である。すぐに気が合い、無類の本好きであることも披露してくれて、図書室へも嬉々として付き合ってくれたが、解き放たれた鳥のようにどこかへ飛んで行ってしまった。まだ図書室にはいるだろうから、探して帰ろうと本棚が両側に立ち並ぶ通路を右に左にと首を回して、ふと目が止まった。  図書室の入り口側に向かう通路の先で、男性が一人立っていた。  一成は少しだけ肩を丸める。いつのまにいたのだろう。本棚と睨み合っていたので気が付かなかった。  ――先生、だよな。  男性は顎に左手を添えて、真剣に本棚を見上げている。その立ち姿から、結構背の高い人だなと思った。

ともだちにシェアしよう!