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第七話③

「同級生で気が合って友達になった奴がいるんだけれど。いきなり副島先生に告白したんだ」  え? と息を詰めて聞いていた伝馬は目を丸くしてびっくりする。  麻樹も当時の気持ちが甦ったのか、ため息交じりに続ける。 「なんか先生に優しくされたとか。詳しくは聞かなかったけれど、まあ、そんな感じ。いい奴なんだけれど、思い込んだらそれ目がけて突進する奴でさ」  顎や口の周りを手のひらで撫でる。 「今思えば、のぼせたんだと思う。副島先生に」 「……」  伝馬は石のように固まりながら、心の中で呟いた。まるで俺みたいだ…… 「副島先生はそれをわかっていたみたいで。告白したら目を覚ませって往復ビンタされたってさ。あいつ、めちゃくちゃ怒っていたな」 「……」  さらに伝馬は居たたまれずに身を縮めた。俺はストレートパンチだった…… 「あんまりにも怒りまくって、俺もその時に始めて聞かされたんだけれど。当時仲良くなった同じ部活の先輩にまで喋ったんだ」  麻樹は膝上に両肘をつくと、両手を絡ませて顎をのせ、数秒間口をつぐむ。 「――その時に、その先輩が話してくれたんだ。副島先生は昔、付き合っていた相手がいたらしい。けれど振られて別れた。それで、自分に告白してくる相手には手酷い態度を取るようになったっていう話」 「……えっ、それって」  伝馬は意表をつかれたように麻樹を振り返る。麻樹も視線だけを伝馬に飛ばす。 「付き合っていた相手はうちの学校の生徒だったらしい。で、振ったのはその相手の方。しかも転校したんだって。先生はそれが辛かったから、もう二度と同じことを繰り返さないって。そういう話を先輩が教えてくれた」  あくまで噂だからと本気でフォローする。 「話してくれた先輩も、本当かどうかはわからないって言っていた、。ただ、転校した生徒は本当にいた。先輩のいっこ上の人。で、その転校した生徒は色々と問題児だったらしくて、副島先生が色々と面倒見ていたらしい。先生が担任だったって言っていた」  麻樹はまた考え込むように少し黙った。 「でも、桐枝。話してから言うのも何だけれど、俺はあんまり信じていないんだ」  伝馬は隣で全身から力が抜け落ちて茫然自失状態になっているが、麻樹の言葉にはなんとか耳を傾ける。 「先輩の話の内容が、副島先生のイメージに合わないんだよな。しっくりとこないっていうか」 「……あ、俺もそう思います」  伝馬はかすれた声で同意する。麻樹は心配そうに伝馬を見やる。 「なんかさ、副島先生がそんなことするかなって思うんだ。先生はおっかない目つきの人だけれど、真面目だから。桐枝には悪いが、それなのに生徒と付き合うかな」  うん、と伝馬は心が沈んだ。それは俺もわかります。副島先生はとても真面目です。生徒には親身になってくれるし。入学式でも桜に見惚れて遅刻しそうな馬鹿な生徒を探しに来てくれたし。だから俺は好きになったんです。  ――それなのに、教え子と付き合って振られて別れたとか。  自分の知っている副島先生じゃないみたいだ。伝馬は頬っぺたに両手をくっつけて俯き、重いため息を吐く。自分の願望が入り交じっているのかもしれないとますますへこみそうになった。

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