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第七話⑤

 一成はやれやれと右肩を回した。ようやくまともに息を吸える。一時間くらい話を聞いていたら、延々と学園のグラウンドを走り回っているような疲労感に襲われた。 「先生!! 俺の話を聞いて下さい!!」  と、放課後にバーンと出現したのは宇佐美である。相談室でじっくりと中間考査のテストを作成しようとしていた一成は、まるで妖怪海坊主にでも遭遇したかのように椅子の上で固まった。話の終わらない奴がきたと頭が痛くなったが、まさしく話が終わらなかった。前回は「彼女とデートするんです!!」というウキウキ話だったが、今回は「彼女に振られました!!!」というガックリ話だった。一成は薄情ではないし生徒の相談員だったので、室内にあるソファーにテーブルを挟んで座って、そうかそうかと聞いていた。そしてやはり話は終了しなかった。話の流れを変えて強制終了させようと「上戸には話したのか」と宇佐美が豪語する無二の親友の名をあげると「うるさいと言われました!! 俺が不幸なのになんて奴だ!!」とうるさかった。一成は無条件に麻樹へ同情して、彼女に振られた割には元気てんこ盛りな宇佐美に、そろそろ部活へ行くよう促した。主将を待っているんじゃないのかと水を向けると、空手部は俺がいなくても大丈夫です!! なぜなら財前がいるから!! と胸を張って返ってきた。いや、財前が気の毒だろうと一成は突っ込みたくなったが、宇佐美は空気を読んでくれたのか、あるいは喋り過ぎて口が疲れたのか、空手部が俺を待っているので行きます!! と高らかに宣言をして相談室を出て行った。あいつは何をしに来たんだと、一成は凝った肩を回しながらソファーに座った。失恋話なのに、ちっとも悲しそうではなかった。わけわからんと額に手をやって、ふうっと息をついた。  すると衝立(ついたて)の向こうから、おかしそうに吹き出す気配がした。  一成は三白眼をぎらつかせて振り向く。 「くたばっていたんじゃないのか」  衝立が返事をするように横に動いて、順慶がニヤニヤしながら出てきた。 「ちゃんとくたばっていたぞ。ご苦労さんだったな、一成」 「じいさんの耳元で蘭堂に喋らせてやればよかった」  一成は面白くなさそうに足を組む。宇佐美に突撃される前に順慶がやってきて「疲れたから、ちょっと休むぞ」と言い残して衝立の向こうに消えた。いつものように古ぼけたソファーの上で横になるのだろうと思ったので、宇佐美の話を聞きながら放っておいたが、楽しく聞き耳を立てておりましたとかいう態度を見せられると、恩師でも口がへの字になった。

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