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第七話⑧

 榮の抱き方は扇情的(せんじょうてき)でいながら、とてもシンプルだった。キスをして、肉体行為をする。そしてまたキスをして、身体を抱く。  一成は体内に溜まった(たけ)りを吐き出すように熱い息を繰り返し、榮を見た。榮は端整な容貌は崩さずに、知的な目元にわずかな熱を含ませている。すらりと整った裸体にガウンだけをまとっているのは、そういう気分なのだろう。どのように一成を抱いたのかは、身に着けさせているワイシャツの汚れ具合を見ればわかる。 「君の視線はまるで物乞いのようだ」  一成が魅入られたように見つめているので、榮は冗談めかして言う。  一成は恥ずかしそうに目を逸らす。無意識の行為だったが、ひっそりと(ひざまつ)く自分の心の内を当てられたようだった。 「いけませんか」  静かに言い返す。高校生の自分だったら、思いっきりムキになっていただろうなと自嘲的になる。  榮は低く笑った。 「成長したな、一成」  その返答が気に入ったというように、再び一成の唇を塞ぐ。口でまぐわうようにキスをしながら、壁に一成の身体を押しつける。 「身体だけが成長したわけではないようだ」 「貴方らしい褒め方ですね」  一成は榮の肩から手を下げて、力いっぱいシニカルぶった。 「怒ることではないと思うが」  榮はなだめるように一成の頬に右手を寄せる。 「君の中で子供と大人が喧嘩をしている。たまにあることだ」 「言っていることが、よくわかりません」  本当はなんとなく察せられたが、突っぱねた。だがそれがまさしく子供染みているようで、一成は自身に苛立った。 「君がわからなくとも、大したことではない」  榮はやんわりと薄い色合いの瞳で笑う。 「私には重要ではない」  そう言うと、一成の腰に両手を回して抱き、そのまま膝を曲げてしゃがんで、剥き出しのペニスを口に入れる。 「あっ……」  一成は吐息のような声を洩らす。ペニスはすでに濡れてべっとりとした精液にまみれていたが、榮は構うことなく口の中でまた愛撫をはじめる。  ああ……と一成は壁に背中を押しつけて、両足を広げた。吸われたり舐められたりする快感が自分の行動を麻痺させる。身体が求める。挿入して激しくして欲しい。もっと。早く。 「……先生」  一成は堪らずに呻いた。  ――俺は馬鹿だ。  頭の片隅で冷ややかに自分を見ている自分がいる。一成は感じながら、頭を上げて天井を睨む。女性のように声を上げさせている男は、高校生だった自分にひどい仕打ちをしたのだ。あれほど貴方に夢中だった生徒を、けんもほろろに捨てたのだ。それなのに抱かれている自分は馬鹿野郎だ、どうしようもない馬鹿野郎だ、馬鹿野郎……

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