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第八話⑩
すると、宇佐美は誇らしげに顎を上げた。
「それは上戸に頼まれたからだ!! 上戸は後輩想いな先輩だ!! そして俺は上戸の無二の親友だ!!!」
あ、そうですかと、伝馬は耳を塞ぎたくなる衝動を抑えながら脱力した。これで疑問はあっさりと立ち消えた。
「次の質問はあるか!!」
「あ、いえ」
「よし!! それでは今から教えるぞ!!」
と、宇佐美は近くにある丸椅子に張り切ってでかい図体 を下ろす。
「桐枝も俺の隣に座れ!!」
「――え? 今からですか」
宇佐美が指をデンッと伸ばして横にある丸椅子を示すが、伝馬は驚いて二の足を踏む。これから部活があるのだ。
「俺、これから部活で」
「むろん、百も承知だ!! 俺は阿呆ではない!! 俺の話を聞いてから部活に行け!! 俺も話し終えたら部活へ行く!! それで万事解決だ!!」
宇佐美は堂々と胸を張る。
いや、あの……と伝馬はちょっとだけ頭の中か真っ白になりかけた。宇佐美は台風が擬人化したようにうるさくて、さらには何を言っているのかわからない。しかしわからないのが普通なんだろうと脳が自動的に判断して、伝馬は台風に遭遇したような気持ちで丸椅子に大人しく腰かける。部活前なのに、もう疲れた。
「……あ、じゃあ、一応上戸先輩に連絡しきてもいいですか」
ここの丸椅子に座って、麻樹と二人で話し合っていたのが遠い昔に思えてくる。その麻樹に部活に遅れる旨を伝えなければと腰を上げかけて、「不要だ!!」と言われた。
「上戸は早退した! 体調が思わしくない!」
宇佐美は盛り上がった胸の前で両腕を組んでいる。声量がいくぶん和らいでる。あくまでいくぶん程度だが、伝馬は丸椅子に座り直して、麻樹の容態を心配する。
「風邪でも引いたのだろう! 身体を休めるのが一番だ!」
そうですか……と伝馬は顎を下げる。もしかして、この間自分が強引に聞いてしまったから、余計な負担をかけてしまったのだろうか。そうだとしたら、申し訳ない。
「……なんか、すみません」
ぽろりと口からこぼれる。優しい部活の先輩は自分の心配もしてくれていた。ナンカ、オレッテホントサイテイ……伝馬は迷惑をかけたという思いでいっぱいになる。
「なぜ、すみませんなんだ?」
普通に聞きやすい声が耳に入って、伝馬は一瞬「誰?」となる。状況からして隣からだと、無言で顎を上げて見る
宇佐美が伝馬を一瞥していた。
うるさいくらいに元気で白い歯を見せて笑っていたのが、まるで別人格に入れ替わったかのように、とても冷ややかな視線を浴びせていた。
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