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第八話⑫

「しかも、根性もありそうだ。ますますいい」  宇佐美はさらにぬーっと顔を近づける。伝馬は圧に押されるように、ぐっと首を後ろへ()らせた。この先輩、ちょっと近づきすぎじゃないか? 「上戸には、桐枝が心配していたと俺から話しておこう。上戸は喜ぶだろう。他人から気にしてもらえるのは、誰にとっても嬉しいことだ」  うむと、ヤバい距離感を読んだように、宇佐美は伝馬から顔を引く。つられるように、伝馬も首を前に戻す。 「上戸先輩は、本当にありがたいです」  頭の中の思考がまだ蛇行運転しているが、自分のせいで麻樹が体調を崩したわけではないことに、ホッと肩を撫で下ろした。 「優しい先輩がいる剣道部に入って、良かったと思っています」  小学生から剣道を習っていたので、高校生になっても剣道部へ入部するつもりだったが、一成が気になってからは、一成が顧問であるクラブに入部しようと思った。だが、どこの部活の顧問でもなかった。残念無念だったが、初心に帰って、剣道部に入部した。  このクラブを選んでよかったと、伝馬はつくづく感じる。上戸先輩はもとより、他の先輩たちも普通にいい。同学年の部活仲間もいい連中だ。雰囲気も悪くない。顧問の先生が気合いだとしか言わないのは、どうかと思うけれど。あれ、そういえば、颯天が来ないな…… 「だから、上戸に相談したのか」  いきなり真横から言われて、伝馬は目を丸くして飛び上がりそうになった。宇佐美の顔面が自分の耳元まで接近している。近い近いと、反対側に曲げられるだけ首を折り曲げる。 「……えーと、そうです」  失礼にならない程度に、若干上半身もあとずさる。この先輩もどういう人なんだろうかと、クエスチョンマークがサンバで踊る。デカ声が止んで、先程から普通に会話している。何かの体内スイッチでもあるんだろうか。以前に麻樹が宇佐美に関して、意味不明なところがあるけれど、いい奴だからとフォローしていたのは、こういうあたりなんだろうかと推測したり。この距離なし接近も意味不明で、ちょっとビビるんですけれど――伝馬はぎこちない態勢を懸命に維持する。 「上戸が優しいから、相談したのか」  宇佐美は伝馬へ屈折(くっせつ)させていた大きな上半身を、劇的にまた起こした。ようやく伝馬は息をついて態勢を楽にして、考えるように頷く。 「あ……そうだと思います」 「優しいと感じたのはなぜだ」  宇佐美は間髪を入れずに聞く。  え……伝馬はポカンとなる。何を聞きたいのだろう、この先輩は。まるで取り調べでもしているような感じである。  ――俺、何かヤバいことでも言ったかな。

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