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第八話⑬
ちらっと隣の宇佐美を盗み見る。宇佐美は口元をきっちりと結んで前を向いている。大柄な体格なので、白い空手着を着て両腕を組んでいると本当に貫禄がある。だがその横顔は別に感情的にはなっていない。伝馬はこの時になって、あることに気がついた。あれ、この先輩……
「あの、優しいと感じたのは、上戸先輩から俺たち一年生に挨拶してくれたり、困ったことがあると、すぐに声をかけてくれたりして……あと一人一人をちゃんと見てくれているというか。そういうところが優しいなと思いました……あ、それに、先輩は聞きやすいです」
部活での麻樹とのやり取りを思い浮かべて言葉に出しながら、だから俺も副島先生のことを聞いてしまったんだとしみじみ理解した。これが他の先輩だったら聞こうともしなかったと、一人納得する。
「うむ、聞きやすいのか」
宇佐美は引き締まった頬をゆるめた。嬉しそうである。
「上戸は、そういう男だ。好 い男だ」
伝馬は無言で同意しながら、宇佐美を再度見る。頭が丸坊主で身体も声もデカく、突拍子もない行動に強く印象を持っていかれていたが、隣同士で座って普通に会話していると、顔やスタイルにも注目がいく。最初は緊張していて気がつかなかった伝馬は、内心驚いた。
――かっこいい先輩だったんだ。
いわゆる、イケメン系である。海坊主のようなヘアスタイルと、台風なみの声量がディープインパクト過ぎて、大体は顔立ちまで到達する前に回れ右してしまうのでわからない。そういう関門 を乗り越えると、宇佐美が実は男前で顔が良いという、ビックリマークが三重になるくらいの新事実が待っていた。
どうして丸坊主にしているんだろうと、伝馬は自然に思った。空手部は髪型を強制してはいない。それは剣道部も一緒なので、本人の自由意思だ。丸坊主のヘアスタイルは、宇佐美の意思表示ということになる。
伝馬はやや上目遣いで天井の壁を見ながら、脳裏に一成を浮かべた。伝馬にとって一番かっこいいのは、やはり一成である。
――先生が丸坊主だったら……
はたして、自分はこんなに先生に惹 かれただろうかと考えて、しょうもない想像に肩をすくめた。いや、惹かれただろうな、きっと。
「桐枝」
はい、と伝馬はすぐに振り向く。
宇佐美が腕を組んだまま、ひょいと顔だけを傾けていた。
「桐枝は、上戸に恋をしたのか」
伝馬の目を微動だにせずに見つめてくる。
「……」
ああ、そういうことか……なんとなくだが察した伝馬は、一呼吸してはっきりと伝えた。
「上戸先輩に恋をしてはいません」
勘違いされたら先輩に迷惑がかかると、伝馬は続ける。
「俺は他に好きな人がいて……そのことで上戸先輩に相談したんです」
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