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第八話⑭
特別に親しいわけではない先輩相手に打ち明けるのは中々勇気がいるが、伝馬は誤解させないようにという気持ちが強かった。
「うむ」
宇佐美は顎を引いた。伝馬を映す男らしい目は晴れやかに笑う。
「桐枝」
「はい」
「お前は正直でまっすぐだ。上戸のことを考えて話してくれたのだな」
楽しそうに豪快な肩を揺らす。
「やはりお前が気に入った。言っておくが、上戸はお前の相談事を一言たりとも俺に話してはいない。ただ、たいそう気に掛けていた」
「はい」
剣道部主将がぺらぺらお喋りする人だとは、毛ほども思ってはいない。
「俺は上戸先輩を信頼しています」
うむと、宇佐美は重々しく相槌を打って、大きな背中をピンとした。
「桐枝は正直に話してくれた。ゆえに、俺も公平にいく。俺は上戸が好きだ」
剛速球なカミングアウトだった。
伝馬はぐっと背筋を伸ばして、膝上に両手をつく。ああ、やっぱりと思ったが、半面躊躇 なく告げられたことにびっくりした。
「あの……」
俺にそんな大事なことを話してもいいのだろうかと落ち着かなくなったが、宇佐美は顎を上げた。
「全く、問題ない!!!」
いい感じで語らっていた更衣室の空気が、一気に崩れる。
「片方だけが大事を告げるというのは俺の性 に合わん!!! 人は互いに公平でなくてはならない!!! 年など関係なーし!!!」
宇佐美は高らかに吠えまくる。
伝馬は条件反射で両耳を手で押さえた。また体内スイッチが切り替わったようで、このまま絶叫大会の会話が続いたらどうしようかと本気で考えた。
「そういうことだ、桐枝」
宇佐美は晴れ晴れとした顔で、両耳を押さえている伝馬を見て笑う。
「だから、お前が上戸の心配をしてくれたことが嬉しい。俺も一番に考えるのは上戸だ。誰よりも大切だからな」
照れた素振りもなく、むしろ穏やかな目をして喋る姿は、麻樹への深い想いが伝わってきた。
伝馬はまた膝上に両手をつくと、宇佐美の言葉を反芻 する。宇佐美に聞かなくても片想いなのは、麻樹の態度から察せられる。麻樹は宇佐美の気持ちに感づいてもいないだろう。宇佐美はそれをどう思っているのだろうか――
やっぱり難しいのかと、伝馬は膝上で指を折り曲げる。男と男。友人と友人。教師と生徒……
「お前が落ち込むことはないんだ、桐枝」
宇佐美は隣でしょげた肩を慰めるように叩く。
「これは俺の気持ちだ。お前はお前の気持ちを第一に考えろ」
「……ああ、はい」
伝馬は肩を叩かれてちょっと目が覚めたように、後ろに軽く頭を振った。
「俺の気持ちなんですけれど」
後輩相手にもかかわらず公平にと話してくれた宇佐美へ、伝馬もぶっちゃけることにした。
「俺の好きな相手は、実は」
副島先生です、と。
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