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第九話①

 寝室のベッドは、相変わらず頑丈だ。大の二人の男が激しい行為に(ふけ)っていても、床に金属で打ち込まれているかのように(きし)む音一つしない。シーツの上で乱れる冴人を()めるように眺めながら、順慶は(らち)もなく感心して、さらにペニスで突く。  二週間ぶりのセックスである。冴人が忙しく、さりげなく順慶が誘っても「私が暇ではないと察しろ、順慶。それがお前の仕事だ」と可愛げの欠片もなく突っ返され、仕方がないなと我慢していた専任ボディガードである。 「……気持ちいいな、冴人」  順慶は生々しい匂いに欲情を()き付けられて、さらに冴人の両足をひらかせると、男にしては繊細な腰を欲望のまま動かす。腰が揺れる都度、恥部に打ち込んだペニスが奥を突いて、白濁の液が漏れて肌やシーツを湿らす。冴人は両手でシーツを掴み、感じているような声で喘ぐ。 「あ……ああ……」  冴人の濡れた睫毛が瞬いて、順慶を見上げる。その目はひどく恍惚めいて、しゃぶりつきたくなるような色香を漂わせている。気持ちがいいんだなと順慶も嬉しそうに唇をゆるめて、休みなくペニスで貫き、冴人を全身でとろけさせる。  しばらくして、「ああ……!」と冴人が背を()り、力尽きたように手指を投げ出し、身体をベッドに沈めた。順慶も荒い息をつき、動きをとめる。冴人がイッたのだ。もう少しやり続けたかったが、順慶もひとしく味わったので、腰を手離した。そのまま身体を重ねて、冴人の顔を両手で抱き、キスをする。冴人の唇は濡れているが、甘い香りがする。冴人の匂いだと、順慶は酔うようにキスをし続けた。  やがて、名残惜しげに唇を離すと、冴人がふうっと息をついた。 「……ようやく終わったか」  減らず口を叩きながらも、陶然(とうぜん)とした目つきになっている。そんな冴人がたまらないと言わんばかりに、順慶は抱いている男の頭を撫でる。 「俺は終わりたくなかったけれどな。もっとやるか、冴人」 「……そのような不埒(ふらち)なことを私に聞くな」  つんと冴人は顔を背ける。順慶は相好を崩した。それが冴人のイエスの返事であるのは、長年の付き合いでわかっている。自分で決めろということだ。順慶は下半身が欲情したのを感じ、さらに激しく抱くことにして、そのために少し身体を休ませることにした。 「冴人も忙しかったな」  両腕を回して背後から冴人を抱き、髪の中に顔を埋める。汗ばんだ匂いが、なぜか香ばしい。 「当たり前だ。理事長は忙しいのだ」  つっけんどんな言い方だが、ぺたりとくっついている順慶を邪険に扱いはしない。 「順慶も忙しいはずだ。すぐに中間考査がきて、次は体育祭がある。(なま)けている時間などない」  女性のように色っぽく喘いでいた声が、いきなり理事長の小言に変わる。 「体育祭は大切だ。生徒たちのためにも、素晴らしいものにしなくてはならない」 「ああ、もちろんだ」  順慶は目を細めて、艶やかな髪の毛に口元を当てる。冴人は誰に対しても尊大無比だが、理事長として生徒たちを気にかけている。誰もが一度きりの高校生活を悔いなく過ごせるよう、心を砕いているのだ。日頃の態度からは想像もつかないが。

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