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第九話⑥

 ――俺って、結構女々しかったんだな。  ちょっと腑に落ちないように小首をかしげる。自分がそんなに繊細なタイプとは思わなかった。小さい頃から一緒にいる勇太だったらどう思うかなと考えて、食べ物の話しかしないだろうなと自分で突っ込んで終わった。そんな勇太は今日学園を休んだ。理由は腹痛である。 「勇太、明日は来られるかな」  さあというように、圭は肩をすくめる。 「悪いものを食べなければ、大丈夫だとは思うけれどね」  そう言って、三時間目の授業開始を知らせるチャイムがスピーカーから流れてきたので、後ろの席へ戻っていく。周囲も波が引くように静かになってそれぞれ着席し、教室のドアが開くのを待つ態勢になる。  ――圭にも、心配かけているな。  一成の授業の後だったので、自分の様子を見に来てくれたのだろう。変に聞いてこないが、なんとなく状況を察してくれたに違いない。お膳立てした圭なりに責任を感じているのだろう。圭に悪いなあと申し訳なく思ってしまう。  ――先生は忙しいんだ。  無理矢理に自分に言い聞かせて、始まった国語の授業に集中しようと黒板を睨む。国語教師らしい端麗な文字が、白いチョークで流れるように書かれていく。  ――文武両道会か……  元はと言えば、それに出場するクラス代表者に選ばれたのが事の発端である。しかも自分が気乗りしなかったため、圭が気を利かせて一成にお願いしに行ったのだ。今は出場に向けて頑張るという気持ちで固まっているが、そもそもそんなものをやるからと、八つ当たり気味になってしまう伝馬である。 「うむ、確かにそうだな!!」  前にこぼした時、宇佐美が元気よく同意してくれた。 「だが!! それが学園の伝統行事であるならば!! 桐枝はやらねばならん!!」  と、これまた気持ち良いくらいにズバッと言い切られた。  あの剣道部の更衣室での一件から、二人は急速に仲良くなった。伝馬は宇佐美に親しい感情を持つようになり、宇佐美もまた気軽に伝馬の相談に乗るようになった。互いに好きな相手を言いあって、仲間のような連帯が生まれたようだった。 「そもそも学園一文武両道会とは、体育祭のおふざけ的な立ち位置で始まったと聞いている」  ある日の放課後、部活へ向かう前に宇佐美から説明された。 「それが、ここまで真剣勝負になったのは、負けたくないという人間の心理に火がついたからだろうな」  宇佐美は普通の声のトーンで話してくれた。伝馬から控えめに発せられる、顔には出さないが声量を落としてくれないかなという電波を受信したのだろう。伝馬と一緒にいた颯天は、先に行くからとそそくさと場を離れたが、宇佐美の普通の話し声に驚いたように振り返って、ヤバいという表情を残していった。

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