104 / 114
第九話⑦
「蘭堂先輩も負けたくないんですか?」
伝馬はあまり勝敗に興味がわかない。だが宇佐美は「うむ」と重々しく頷いた。
「当然だ。勝負には勝ちたいと思うのが、俺だ」
自信過剰とも取れる言いようだが、不思議としっくりきて、伝馬はすごいなあと宇佐美を見上げる。
「俺は一学年からクラス代表に選ばれている。選ばれたからには、優勝する。実際に優勝した。真剣であろうが、お遊びであろうが、全力でやる。俺は人の背中なんぞ見たくない」
堂々と胸を張って宣言する宇佐美に、謙遜や謙虚という言葉は存在しないようだが、伝馬は特に傲慢とも感じなかった。
「先輩らしいです」
すると、宇佐美はパワフルな口元をニヤリとさせた。
「桐枝も優勝を目指せ。そうすれば、驚くべきことが起こるかもしれん」
え? と伝馬が困惑げに聞き返そうとした時、廊下の向こうから声がした。
「あ、宇佐美! 桐枝!」
呼ばれた二人がそろって振り向くと、麻樹が小走りで寄ってきた。
「もう部活の時間だろう? 二人で何してるんだ?」
学生服姿の麻樹は黒いリュックを片方がけにし、道着を小脇に抱えている。
宇佐美は大柄な目を細めて吠えた。
「上戸に頼まれたことをしていた!!」
「え? 俺、何か頼んだっけ?」
「俺たちは無二の親友だ!! 三分待つ!! 思い出せ!!」
宇佐美はいつもの調子に戻っているが、声が楽しそうに弾んでいる。麻樹はあーっと閃いたように、伝馬を振り返った。
「そうだ、体育祭のこと、宇佐美から聞いた?」
「はい、色々教えてもらいました。ありがとうございます」
伝馬は麻樹と宇佐美に向かって、気持ち頭をさげる。慌てて麻樹は空いている手をぶんぶんと横に振った。
「そんなクソ真面目に言うなって。軽いノリでいいんだから」
なあと、横にいる宇佐美に話を振る。宇佐美は呵々 と笑う。
「桐枝はそういう男だ!! 全くもっていい後輩だな!!」
「まあな。てか、お前もうちょっと静かに喋れ、な」
麻樹は毎度のごとく同じことを口にして、伝馬に向き直る。
「宇佐美から俺の心配してくれたって聞いたぞ。心配してくれたのは嬉しいけれど、桐枝は本当に気を使い過ぎ。それが悪いっていうんじゃなくて、もっと気を抜いてさ。お気楽な感じで、全然いいから。入学してまだ半年も経っていない一年生なのに、なんか頑張り過ぎだって」
先輩風を吹かせた説教調ではなく、伝馬を思いやって口添えしているのは、麻樹の心配そうに曇った表情からも伝わってきた。いい先輩だなあと、つくづく思う。
「面倒見が良いな!!」
宇佐美はそんな麻樹をどこか誇らしそうに見る。
「相変わらず人が好 い!! 好すぎて人生を心配するレベルだ!!」
ともだちにシェアしよう!

