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第九話⑦

「蘭堂先輩も負けたくないんですか?」  伝馬はあまり勝敗に興味がわかない。だが宇佐美は「うむ」と重々しく頷いた。 「当然だ。勝負には勝ちたいと思うのが、俺だ」  自信過剰とも取れる言いようだが、不思議としっくりきて、伝馬はすごいなあと宇佐美を見上げる。 「俺は一学年からクラス代表に選ばれている。選ばれたからには、優勝する。実際に優勝した。真剣であろうが、お遊びであろうが、全力でやる。俺は人の背中なんぞ見たくない」  堂々と胸を張って宣言する宇佐美に、謙遜や謙虚という言葉は存在しないようだが、伝馬は特に傲慢とも感じなかった。 「先輩らしいです」  すると、宇佐美はパワフルな口元をニヤリとさせた。 「桐枝も優勝を目指せ。そうすれば、驚くべきことが起こるかもしれん」  え? と伝馬が困惑げに聞き返そうとした時、廊下の向こうから声がした。 「あ、宇佐美! 桐枝!」  呼ばれた二人がそろって振り向くと、麻樹が小走りで寄ってきた。 「もう部活の時間だろう? 二人で何してるんだ?」  学生服姿の麻樹は黒いリュックを片方がけにし、道着を小脇に抱えている。  宇佐美は大柄な目を細めて吠えた。 「上戸に頼まれたことをしていた!!」 「え? 俺、何か頼んだっけ?」 「俺たちは無二の親友だ!! 三分待つ!! 思い出せ!!」  宇佐美はいつもの調子に戻っているが、声が楽しそうに弾んでいる。麻樹はあーっと閃いたように、伝馬を振り返った。 「そうだ、体育祭のこと、宇佐美から聞いた?」 「はい、色々教えてもらいました。ありがとうございます」  伝馬は麻樹と宇佐美に向かって、気持ち頭をさげる。慌てて麻樹は空いている手をぶんぶんと横に振った。 「そんなクソ真面目に言うなって。軽いノリでいいんだから」  なあと、横にいる宇佐美に話を振る。宇佐美は呵々(かか)と笑う。 「桐枝はそういう男だ!! 全くもっていい後輩だな!!」 「まあな。てか、お前もうちょっと静かに喋れ、な」  麻樹は毎度のごとく同じことを口にして、伝馬に向き直る。 「宇佐美から俺の心配してくれたって聞いたぞ。心配してくれたのは嬉しいけれど、桐枝は本当に気を使い過ぎ。それが悪いっていうんじゃなくて、もっと気を抜いてさ。お気楽な感じで、全然いいから。入学してまだ半年も経っていない一年生なのに、なんか頑張り過ぎだって」  先輩風を吹かせた説教調ではなく、伝馬を思いやって口添えしているのは、麻樹の心配そうに曇った表情からも伝わってきた。いい先輩だなあと、つくづく思う。 「面倒見が良いな!!」  宇佐美はそんな麻樹をどこか誇らしそうに見る。 「相変わらず人が()い!! 好すぎて人生を心配するレベルだ!!」

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