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第十話①
「いよいよだねー」
勇太が隣で呑気 に背伸びをする。
伝馬は肩を並べて歩きながら、軽く肩を鳴らす。一時間目の体育が終わり、みんな教室へ戻る最中である。元気溌溂 オロナミンCのような古矢の授業に、全員がげっそりとなったので、級友たちの足並みはトロトロと遅い。そんな中でも、古矢とタッグを組んでリポビタンDのCMでファイト一発できそうなほど元気なのは勇太である。
「明日は体育祭だっていうのに、先生は手加減というものを知らないんだ」
と、後ろからついてくる圭は、げっそりを越えて少々苛立ちモードになっている。
「圭ちゃんは運動が嫌いだから、何をしてもプンスカだよね」
勇太は天使のような無邪気さで、相手を怒らせる。圭からの不穏な空気をいち早く嗅ぎ取った伝馬は、急いで割って入る。
「勇太も圭から勉強を教えてもらったから、中間考査の点数が良くて嬉しかっただろう?」
中間考査の二週間前から、勇太に勉強を教えていた圭の姿を見て不思議に思ったものの、伝馬は敢 えて聞かなかった。だが勇太にさりげなく話を振ってみたら「テストの点数が良かったら、おいしいものが食べられるよって、圭ちゃんに言われてさ!」と目をキラキラさせて言われた。意味がよくわからなかったので、やっぱり圭に聞いてみると「見るに見かねてね」という大変にシビアなお言葉を頂戴した。まあなと、幼馴染みの伝馬は納得した。時にはたこ焼きを食べて腹を下して倒れたりするが、体育だけが得意な勇太は、それ以外の科目は基本捨てている。この学園に入学できたのは神の奇蹟だと、中学校の担任からびっくりされたくらいには成績が悪いので、圭の面倒見の良さが意外だった。案外クールに見えて、お節介な一面があるのかもしれない。
「そうだった!」
勇太は思い出したというように、まるで大好きなラーメンを目の前にした時のようなワクテカ顔になる。
「圭ちゃんのおかげで、俺史上、まじで点数が良かったんだ! 圭ちゃんごめん! プンスカしても圭ちゃんはスゴイから!」
張り切って後ろを振り返り、圭に白い歯を見せて右手でサムズアップする。
「圭ちゃんありがとー!」
その悪気ゼロの溢れんばかりの笑顔に、圭は毒気が抜かれたような表情になって、眼鏡のブリッジを指先で押し上げる。
「勇太だから、いいけどね」
しょうがないなと含んだように口にして、伝馬の隣に並ぶ。
「伝馬も頑張ったよ。すごいじゃないか」
「あ、まあ……クラスの代表だし」
圭の機嫌が直ってホッとした伝馬は、日差しの熱さに少し目を細める。
「でも、まさか廊下に張り出されるとは思わなかった」
中間考査が終わり、なんと体育祭の学園一文武両道会に出場するクラス代表者たちのテスト結果が、学年ごとに一斉に廊下へ張り出されたのである。「聞いてないよぉー」と、一学年のクラス代表者からはお馴染みのギャグが炸裂したが、伝馬ももれなくギャグりたくなった。
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