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第十話②
「仕方がないことだ!! もう大会は始まっているのだ!!」
貼り出された日の昼休みに、突如として宇佐美が伝馬のいる教室に台風のごとく来襲した。突然のスキンヘッドの大男の登場に教室中がざわめいたが、宇佐美はお構いなしに堂々と入ってきて、空いていた伝馬の前の席にドンッと腰を下ろすなり叫んだ。
「……え、先輩どうしたんですか」
伝馬は食べかけのおにぎりを手に持ったまま、目の前の壁のような宇佐美を、目を丸くして見上げる。いきなりの登場に文字通り仰天した。
「うむ」
宇佐美は後ろ向きに椅子に座って、胸の前で両腕を組む。
「両道会に出場する代表者たちの中間考査の結果が廊下に貼り出されて、一学年で騒ぎになっていると聞いてな。これは両道会の競技の一環で、成績を公開しなければならんのだ」
「……あ、そうなんですか」
伝馬は今知ったというように相槌を打つ。おそらく宇佐美は一学年の各代表者たちの動揺を伝え聞いたのだろう。伝馬も貼り出されたのにはびっくりしたが、先生方から説明を受けた後だったので落ち着いていた。だが宇佐美がわざわざ休憩時間に足を運んでくれたのは自分のためだとわかって、宇佐美に話を合わせた。
「驚いたんですけれど、仕方がないです。テストの点数も加算されるって聞いていましたから」
「うむ、それならば良い」
宇佐美は男前な相好を崩す。真正面から向き合うと、本当にイケメンな先輩なのだと伝馬はつくづく感心した。スキンヘッドでなければ、もっと周囲にそのイケメン度が認知されていただろうとさえ思う。
「でんまー」
伝馬の真横で、アルミの弁当箱を片手にひじきの炊き込みご飯をかっ食らっている勇太が、無邪気に尋ねる。
「この先輩だれ? カッコいいね」
すると、宇佐美は興味津々といった表情で勇太に顔を向けた。
「桐枝の友人か? 随分と率直ではないか!」
宇佐美の声がポンと跳ね上がる。ヤバいと伝馬は密かに焦る。ただでさえ教室中の注目を一身に集めているのに、宇佐美のバカデカボイスが爆発したら、級友たちから大ブーイングが巻き起こるかもしれない。
「蘭堂先輩も、両道会に出場されるんですよね」
勇太の斜め前に座っていた圭が、宇佐美を振り返って、静かで穏やかに声をかけた。
「うむ、そうだ」
まるで何かのサインでも受け取ったかのように、宇佐美もまた声の調子をやわらげて頷くと、今度は圭を見て、にやりとする。
「お前は藤島の甥だな。頭脳明晰だと聞いている」
「ありがとうございます。叔父さんによろしく伝えて下さい」
圭はまるで台本があるかのようにそつなく返して、小さな唐揚げを口に入れた。
「桐枝の友人たちは、実に面白い。良い学校生活を送れるな」
宇佐美は愉快そうに笑って、用事は済んだというように教室を出て行った――
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