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第十話③
「蘭堂先輩と伝馬が親しかったのには、正直驚いたけれど」
圭は勇太と伝馬の歩調に合わせながら、思い出した風に眼鏡の奥からちらっと視線を向ける。
「うん、蘭堂先輩はとてもいい先輩なんだ」
上戸先輩もと、口の中でこもる。宇佐美がいなくなった後で、当然ながら周囲から質問責めにあった。宇佐美は一年生たちも知っている超有名な先輩のようで「あの蘭堂先輩と???」ビックリマーク三連発で驚かれた。伝馬は宇佐美に迷惑がかからないように、剣道部主将の紹介で親しくなったとみんなに説明し、あとで勇太と圭だけには自分自身のことで相談に乗ってもらったと伝えた。当たり前だが、宇佐美の個人的な事情には一切触れなかった。
「両道会について教えてもらうのなら、確かに蘭堂先輩はいい人選だね。先輩は二連覇していて、今年も学年で優勝したら三連覇だって、三年生の間でお祭りになっているらしいから」
圭は大して興味なさそうに口にする。
伝馬は圭の顔色をうかがうように、少し歩調を遅くする。
「それって、叔父さんから聞いたのか」
「うん、そう」
圭は前を向いたまま、素っ気なく肯定する。
伝馬は気まずそうに視線を逸らした。圭の叔父の話は、宇佐美のことを伝えた後で、勇太が「ところで、圭ちゃんのオジさんってだれ?」と屈託なく聞いたことで判明した。「今、三年生で副会長をやっている人」と圭が答え、勇太も「へー、圭ちゃんのオジさんってセンパイなんだ」と単純にびっくりして話題は終わったが、圭がそれ以上は口にしなかったので、伝馬もあまり突っ込まないようにした。
――別に知らなくてもいいしな。
家族がどうとか、誰がどうとか。
伝馬は無意識にお腹に手をやる。知らなくていい話を、無理やり聞き出してへこんでいる自分は、本当に馬鹿なんだと自己嫌悪が収まらない。
――聞くんじゃなかった……
ずっと心の中でループしている。
相談室での一成の言葉が、耳にこびり付いて離れない。
――上戸先輩の話は本当だったんだ……
あの後、部活に向かうという義務感が足を動かしてくれたような感じで、伝馬の記憶はぼやけている。覚えているのは、先に行っていた颯天が伝馬を見るなり「ヤバい、ヤバい顔しているって」と焦り、それを聞いて駆けつけた麻樹からも「大丈夫か? 顔が白いぞ、桐枝」と心配そうに顔を覗き込まれた。「そんなにヤバいですか」と真面目に颯天の口調を真似ると、麻樹も颯天も、その場にいた他の剣道部の先輩や仲間たちも、一様に「ヤバい」という顔つきになって伝馬を見つめた。
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