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第十話④
――うん、確かにおかしかった、俺。
今だっておかしいよなと、歩きながら下を向く。土で汚れた外履きの用の運動靴は、明日の体育祭では履かない。熱中症対策のため体育館で行われるのだ。第一体育館、第二体育館の両方で開催される。
――どういう感じなのか、いまいち掴めない。
予定では、文武両道会は午後に開催される。一学年、二学年、三学年の順で行われるという。その競技内容は、自分が聞いている限りでは、おおよそ陸上競技関係が中心のようだが、当日に変更されるかもしれないと、教えてくれた宇佐美が豪快に笑った。
「前にも言った通り、おふざけで始まったからな。いい加減なのだ。そのいい加減さに、付き合えた者が勝つのだ」
――俺にできるかな。
伝馬は日差しの強さを肌で感じながら、風に吹かれてぺたっとなった稲穂のような気持ちを、無理やりにでも奮い立たせる。
――でもやるんだ。そして優勝するんだ。そうして先生に……
わかったと言ってくれた。伝馬の目元がほっこりとゆるむ。だが追いかけるように、いたなという返事も重たくのしかかってきて、心がぐらぐらと揺れる。
――先生に好きな人がいたのは昔の話なんだ……俺は頑張るんだ……
両手で固く固く拳をつくる。あまりに力を入れたので肌が白くなった。
「でんまー」
勇太がひょいと振り向く。
「伝馬だったらやれるよ。だいじょーぶ」
「……そんなにヤバい顔しているか、俺」
伝馬は両手の拳をやわらげる。思い込みが激しすぎて、また顔がおかしくなっていたかなと不安になったが、勇太はぶんぶんと首を横に振った。
「だいじょーぶ。いつもの伝馬だから。おいしくラーメンを食べられるよ」
「――そうか、良かった」
いつもの意味不明なユウタトークに、肩の力がちょっとぬけた。
「そうだ。明日の体育祭がおわったらさー、みんなでラーメン食べに行こうよー」
唐突に、勇太は提案する。ラーメンという単語に食欲のスイッチが入ったようだ。
「あ……」
伝馬は口ごもる。体育祭が終わったらその勢いのまま、一成に突撃するつもりだった。
「明日は駄目。僕が疲れているから。次の日は休日だから、その時に食べに行こう」
圭が横から口を出し、眼鏡の奥で鋭い視線を伝馬へ飛ばす。まるで全部お見通しと言いたげな態度に、伝馬は少し顔が赤くなりそうだった。
「わかったー。じゃあ、休みの日ね。ラーメンは俺の大好きなこわもてメンね!」
二人の様子にてんで気がつかない勇太は張り切って宣言する。「強面 メン」は勇太の大好きなラーメン店だ。
「圭ちゃんは俺がおごるね。べんきょー教えてもらったから」
勇太はニッコニコと圭を見る。
圭はやや面食らったように勇太を見返して、眼鏡のブリッジを指先で押し上げた。
「そんな気を使うことじゃないけれど。でもせっかくの申し出だから、ご馳走になるよ」
「へへ。やったね」
謎に喜ぶ勇太は、今度は伝馬を見て、
「伝馬も俺のおごりね。体育祭じゃ、ぶんぶなんとかでクラス代表で頑張るからさー」
得意げに胸を張る。
「え……いや、でも」
伝馬は遠慮がちに断ろうとしたが、勇太はどこ吹く風で、空を見上げて鼻歌交じりに言う。
「俺の大好きなラーメン食べてさー、みんなで幸せになろうよー」
「……わかった」
勇太が今日の空模様のようにとっても晴れやかな顔をしているので、無理に断るのも野暮かと思い、圭と同様にご馳走になることにした。しかし勇太本人も含めて三人分のラーメン代は、財政的に大丈夫なのかちょっと心配なので、財布は持っていき、いつでも支払える準備をしておくことにした。
隣の圭と、一瞬視線が合った。圭は目で頷いたので、自分と同じ心積もりなのだと伝馬は苦笑いした。
「おいしいラーメン食べてさ、みんなで元気になろう!」
勇太は両腕を伸ばして楽しく笑う。
「そうだな」
伝馬は勇太につられるように心が軽くなっていくのを感じる。
――元気でいたい。
明日の体育祭が終わった後で、自分はどうなっているんだろう。勇太や圭と一緒に笑ってラーメンを食べているんだろうか。伝馬は想像がつかない。
――頑張るぞ。
先生とも笑ってラーメンを食べてみたいなと、ふと思った。
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