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第十話⑤
「疲れた……」
一成は崩れ落ちるように、ダイニングテーブルの椅子に腰かけた。残業数時間。ようやく帰宅できた。
――明日は体育祭だからな。
その最終準備で、一日中大 わらわだった。体育祭の運営や企画は、基本的に生徒会と体育委員会が主体となるが、学園側も教員たちが様々な面でサポートに入る。
――今の生徒会は有能な生徒が集まっているから、あまり手伝うこともないが。
とはいえ、教員たちも安全管理などの面で注意を怠ってはならない。大ケ生 校長が職員会議で「とにかく生徒たちの安全第一で。体調不良には気をつけ、事故や怪我などは絶対に防がねばなりません。全教員が一丸となって、生徒たちを見守って下さい」と、くどいくらいに念を押していた。
――何かあったら、叔父貴に呼び出されるのは校長だからな。
と、同情しながらも、片手で顔を覆う。
「俺もだな……」
瞼が重たく眠るように落ちていく。
――明日、深水先生がやって来る。
胃のあたりが針を突き立てられたかのように痛い。ずっとだ。
――俺がきちんと接待しないと、叔父貴は激怒するんだろうな。
明日体調不良にならないかと、一成の頭には夢想がよぎる。そんな子供染みたことを考える自分に嫌気がさして、肩を落とす。
――どんな顔をして会えばいいんだ。
テーブルに片肘をついて、頭を抱える。榮とは連絡を取ってはいない。会いにさえ行ってはいない。それなのに――
――俺は……明日、どうなっているんだ……
重要な体育祭で、大切な生徒たちに集中しなければならないのに。意識は引きずられていく。
――駄目だ……深水先生のことばかり頭に浮かぶ……
一成は両手で荒々しく髪を掻 きむしる。
くそっ! くそっ! くそっ!
「……くそっ!」
罵倒は止まない。
こんな気持ちで――
一成は両手の中に深く深く顔を埋める。もう何も見たくないとでもいうかのように。
――最低だ、俺は。
「本当に……最低だ」
翌日、朝から気温が上がり、炎天下になりそうな予感の下で、体育祭は始まった。
開会宣言は、生徒会長の相澤 肇 が第一体育館で行った。選手宣誓は、生徒代表として宇佐美と麻樹が登壇し、宇佐美はマイクを片手に、恐ろしいまでのミラクルデカボイスで宣誓した。隣に立っていた麻樹はまともに喰らって両手で耳を塞ぎながらよろけ、体育館にいた生徒や教員の約半数が麻樹と同じ行動をとるという前代未聞の展開になった。が、宇佐美は両腕を組んで呵々 となったので、怒った麻樹が食ってかかって選手宣誓を終えるという、オチはギャグマンガになった。
そんなハプニングはあったが、なんだかんだで開会式は無事に終了し、競技の幕は上がった。
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