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第十話⑦
体育館はすでに冷房が効いていて、バレーの試合をするには絶好のコンディションになっている。
水瀬がみんなにバレーのルールの説明をしている間にも、他のクラスのメンバーがぞくぞくと体育館に集まってくる。試合は一学年から始まるが、二年生や三年生の姿もちらほら見える。
――あ、上戸先輩だ。
伝馬は体育館の舞台ステージの脇にいる麻樹に気づく。白い半袖Tシャツにネイビーのトレパン姿で、片手にバレーボールを抱えている。その隣にいるのは、麻樹と同じく運動着姿の宇佐美だ。
――先輩たちもバレーをやるんだ。
その試合を見てみたいなと、ちょっとした好奇心がぽこっと湧く。麻樹と宇佐美は肩を並べて、顔を向けあっている。何か話し合っているようで、麻樹がニヤニヤしている。宇佐美のバカでかボイスは聞こえてこないので、伝馬は先程の選手宣誓を思い出し、ホッと胸を撫で下ろした。
「上戸との会話は、いまだに緊張するのだ」
以前に、どうしてそんなに声がデカくなるのか不思議だったので尋ねたら、宇佐美は悩ましげに唸った。
「三年目だが馴れん。俺がこれほど可憐な奴だとは知らなかった」
「……はあ」
「桐枝も、副島先生と会話する時に緊張はしないのか?」
「――します」
けれど、と伝馬は言葉を呑み込んだ。宇佐美の場合は少し次元が違うような気がする。だいたい麻樹以外でもハイパーになっている。
「うむ、確かにそうだ。なぜなら俺は、声が盛り上がらないと、相手と会話を続ける情熱が湧かないのだ!」
宇佐美はきっぱりと言い切る。その底抜けの自己肯定感の高さに、伝馬は内心ポカンとしながらも曖昧に頷いた。なんだかよくわからないが、宇佐美なので深く考えないことにした。
「――上戸と毎日会って会話が出来るのも、今年で終わりだな」
その後で、ふいに洩らした寂しげなため息が、伝馬の耳に残った。
――蘭堂先輩は、どうするんだろう。
伝馬は視線で二人を追う。自分は両道会で優勝したら、先生にもう一度告白するつもりである。そのことを宇佐美にはまだ話していない。
――余計なお世話だと思うけれど。上戸先輩と会えなくなるのなら、俺だったら……
視界に入る二人は、ステージの縁を歩きながら楽しそうだ。と思ったら、麻樹がまた宇佐美に何事か詰め寄り、バレーボールをぽいっと投げる。宇佐美が手のひらの上でひょいとそのボールをキャッチして、麻樹を振り返り、破顔した。
――いい雰囲気だよな。俺も先生とあんな風に……
「――桐枝、どこ見ているの?」
その声で、伝馬は我に返って、慌てて視線を逸らす。目の前では、困惑気な水瀬とクラスメートたちが伝馬を見つめている。
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