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第十話⑧
「ごめん。でも聞いていたから」
半分くらいしか水瀬の話を聞いていなかったが、大体のルールはわかった。
「いや、いいんだけど。桐枝は午後から両道会に出なきゃいけないから、オレたちでカバーするから」
水瀬は慎重に伝馬の様子をうかがう。
「大丈夫、そんな気を使わなくていいって」
そういえば自分のことを心配してくれていたと伝馬は思い出し、なるべく普段通りに言う。
「バレーも両道会も、ちゃんとやれる。御子柴は心配し過ぎだって」
「そう? じゃあ、俺もちょっとウザいかなと思ったから、ここで終わりにする」
水瀬はすぐに話題を切り替えて、五人のクラスメートを見回す。
「ま、あまり無理しないで、頑張れるところまで頑張ろう。俺たち練習もしていないし。負けても、体育祭は卒業まであと二回あるから。そのうち勝てるって」
水瀬のマイペースなメンタルが出ているような言葉に、伝馬は表情を和ませる。他のメンバーも笑い出した。
「なんか、いいな、こういうの」
伝馬は隣にいるクラスメートを振り向く。伝馬と文武両道会のクラス代表を競った遼亜が、珍しく口をひらいた。
「こういうゆるい感じで始まって、だんだんと熱中していくのが楽しいんだよな」
あまり同級生と会話しているのを見たことがなく、無口系だと思っていた遼亜が喋ったのにはややびっくりしたが、遼亜が自分にちらっと視線を投げたので、「あ、そうだな」と伝馬も返した。
「それじゃ、鷹羽の言う感じで、ゆるく始めようか」
水瀬は近くにあった四角いボールカゴから白いバレーボールを一つ取ると、五人に輪になるよう指示する。
「試合の前に、軽くウォーミングアップね」
そう言って、両手を上げてトスをする。遼亜が同じ態勢でボールをパスし、それを受けてバレー部所属のメンバーが両腕を構えてレシーブをする。
そうやって、六人でボールを回し始めた。
一成は職員室で所在なさげに自分の席に座っていた。
他の教員たちは全員、体育祭のため出払っている。一成は榮の接待を任されたため、体育祭関連の業務は免除された。
――俺も生徒たちの試合を見たかったのに。
すでに壁時計の針は九時を回っている。二つの体育館で、体育祭は始まっている。
――深水先生が到着するのは十時頃か。
冴人から時間厳守をきつく言い渡されている。出迎えの場所は、来客用の正面玄関だ。
一成は何度目かのため息をついて、誰もいない職員室に視線を巡らす。窓から入る日の光が暑さを含ませて、物音一つしない隔絶された空間を浮かび上がらせる。
――先生も、ここにいたんだな。
物がやたらと多い雑多な職員室。今になって、榮には似合わない場所だったと思える。
――似合わないというより、場違いな感じだ。
職員室という日常そのものが、榮にはひどくそぐわない。たとえれば、色違いの同じ花が咲いている中で、色も形も大きさも咲き方も全てが違う。どうしてここで咲いたのかがわからない。そんな異質感。
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