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第十話⑨

 ――深水先生もそれを感じていたはずだ。  自分の異質さを。  一成は硬い椅子の背に体重を預けて、物憂げに目を細める。どうして教師をしていたのだろう。なぜ教師になったのだろう。榮に尋ねたことがある。しかし榮は含んで笑っただけだった。  ――非日常だったな……  一番しっくりとくる言葉だ。榮はまさに「非日常」だった。  ――だから俺は……のめり込んだ……  小さく頭を振る。過去の話ではない。それは現在も進行中だ。  手で胃の辺りを押さえた。自分の気持ちに、自身が反発している――わかっているだろう? いや、しかし――不毛な押し問答が続いている。  ――俺はどうしたいんだ。  職員室の壁時計を睨む。九時四十五分だ。  その時、職員室のドアがそろそろと開いて、ひょこっと顔が覗いた。 「ここにいたのか、一成」  七生である。 「どうした」  七生は司書だが、他の教員と同様に体育祭のサポートに回ることになっている。 「いや、どうもしないけれどさ」  七生は室内を見回しながら入ってきて、一成のそばに寄る。 「俺はこれからバレーの試合の補助に入るんだ。一成は深水先生を待っているんだろう?」 「ああ。あともう少しで到着時間になる。そろそろ正面玄関に行こうと思っていた」  七生は確認するように壁時計を見て、すぐに一成に視線を落とす。 「ねえ、一成。大丈夫か?」 「……何が?」  一拍置いて、一成は顔も上げずに聞き返す。声がややかすれている。七生が自分と先生の関係を知っているはずがない――が。 「いやだって、顔色が悪いからさ」  七生は心配そうに表情を曇らせる。 「一成は深水先生に懐いていたから、会えるのは嬉しいだろうけれど。具合が悪いなら、俺が代わろうか?」  何も含むことのない純粋な労わる言葉に、一成は目だけ伏せた。疑った自分が恥ずかしかった。七生は優しいのだ。昔も、今も。 「いや、大丈夫だ」  目を上げて、七生に口元で明るく笑む。 「俺も緊張しているんだ。深水先生に会うのは久しぶりだからな。俺も先生と同じ教師になったし……何て言われるのか、ドキドキしている」  言いながら、口の中が乾いていく。嘘をつくのも、社会人としての立派な責務の一つなのだと――少なくとも、自分にとっては。 「そうか、なら、いいんだけれど」  七生は疑いもしないで、素直に信じてくれる。その分、重たいしこりのような罪悪感が、一成の胸になだれ落ちた。 「心配かけたな、七生。すまん」 「別にいいんだよ。俺たち友人なんだから」  七生は照れ隠しのように右手をひらひらと振り、 「それじゃ、俺も行くよ。平等に応援するつもりだけれど、一成のクラスはこっそり増し増しで応援する。あの子もバレーをやるみたいだし」 「あの子?」  思わず声が出た。

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