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第十話➉
「あの子って?」
「ほら、俺と本で盛り上がった子だよ。鷹羽君だ。前に話しただろう?」
「あ……ああ、鷹羽か」
一成は促されるままに記憶をめぐらす。確か図書室だったかなと光景が甦る。七生がカクテルを飲みながら空を飛びたいとか何とか言っていたような気が。
「鷹羽君は本当に本好きでさ。色々なジャンルの本を借りていくんだ。俺とも本の話をしてくれて。すごく楽しいよ、俺はね。鷹羽君はオタクな俺にうんざりしているかもしれないけれど」
と、自分でツッコミを入れながらも、色男はとてもにこにこしている。相当嬉しいんだなと、一成もつられて頬がゆるむ。
「鷹羽は口数が少ないから、七生と会話しているのは楽しいんだと思うぞ。少なくとも、うんざりはしていないと思う」
「そうかな?」
七生は自信なさげに小首をかしげるが、一成は大丈夫というように頷く。担任から見ても、遼亜は義務感やお愛想でお喋りする生徒ではない。
――それにしても、鷹羽はそんなに本好きだったのか。
前にも七生がそれらしいことを言っていたので、普通に読書をするくらいの認識だったが、今の言葉を聞けば、がっつりと借りまくっているようだ。教室で本を読んでいる姿を一度も目撃したことはないが、おそらく家に帰ってから読んでいるのだろう。成績は良く、部活はバスケ部、そして読書家。学園の文武両道の精神を文字通り地て行っていて、一成は感心した。今どきの高校生にしては、ずっと図書室で本を借りて読んでいるということも、意外だった。
七生はもう一度壁時計を見た。
「じゃあ、そろそろ俺は行くよ。一成も無理しないで」
「七生もな」
互いに手を挙げて、七生は職員室を出て行った。
一成も壁時計に視線を投げる。あと五分くらいで十時だ。
重たい息を吐いて、腰を持ち上げた。七生と喋って、いくぶん気分が落ち着いた。
「……図書室か」
自分が榮と出会ったのも図書室だった。七生と遼亜のような感じではなかったが、榮も自分のことを親しげに「あの子」と口にした時があったのだろうか。
「俺も行くか」
一成は首を振った。馬鹿なことを考える暇があったら、今から始まる現実を見据えなければならない。
――あの子、か。
なぜか、一成の脳裏に浮かんだのは、まっすぐな目をする伝馬だった。
「俺たちってすごいねー。一度も練習していないのに勝てたよ」
水瀬はちっともすごくなさそうに感想を言って、ワンタッチ式ステンレスボトルに口をつける。その隣にいた伝馬も持参したマイボトルで水を飲みながら、チームメイトと一緒に体育館の隅で床に座り、ひと息ついている。
バレーの第一試合が終わって、一年三組は四組に二対〇で勝った。ほぼ圧勝だった。
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