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「はぁ…。」
「ごめん。」
「…加減ってものを覚えろよ、お前は。」
「うん。」
6時ちょっと前にやってきた事務員に叩き起されコンビニ飯を渡され、あれよあれよという間に事務所を追い出された。飯を買ってきてくれるなんて、優しい事務員さんだ。あの後、散々付き合わされて4時過ぎにようやく解放された俺はヘロヘロでそのまま寝てしまった。ヒロがせっせと片付けて、服も着せて換気もしてくれていたお陰で怒られる事は無かったが。ヒロが俺に抱きついて寝るのは周知の事実で、同じソファーで寝ててもツッコまれる事も無かったし。それにしても、こいつバケモンかよ。あんだけしておいて、朝から普通の顔してるし、何ならスッキリして元気そうなんだが?
「どれ食べる?」
「火葬場の待合室って飯食っていいの?」
「端っこだし、人少ないから。」
「…シャケある?」
「はい。」
持たされたコンビニの袋から、鮭のおにぎりと緑茶が出てくる。ヒロは梅干しおにぎりのフィルムを剥いている。
「ヒロって梅干し好きなの?」
「別に。」
「だよね。」
いつも買ってくるの鮭とツナマヨだもんな。
「次ツナマヨ食べていいよ。」
「…高菜が残る。」
「…途中でコンビニ寄ろ。」
「分かった。」
しばし無言でむしゃむしゃとおにぎりを頬張る。寝不足で胃に物が入っていかない俺と違い、ヒロは梅干し、ツナマヨ、高菜と次々胃に収めていく。マジで体力お化けなんだよな、こいつ。運転は任せて道中で寝よう。何とかひとつ収めた所で、向こうから人がやってくる。
「お前たちが運び屋か?」
「はい。そうです。」
強面でいかにもヤクザみたいな男の人だ。隣に立ったヒロが警戒しているのが分かる。そんなヒロを見遣り、ふっと笑った男は、腕に抱えていた箱を差し出してきた。ヒロが受け取る。
「この遺骨を墓まで届けてくれ。」
「はい。場所は?」
「ここだ。」
受け取った紙には西の方の住所が書いてある。
「遠いっすね。」
「運び屋はどこにでも運ぶと聞いているが?」
「これ、お寺の住所ですか?墓の場所は?」
「住職に話は付けてある。本堂に行って『松本』だと言えば分かる。」
「分かりました。お代は?」
「戻ってきてからだ。戻ったら、携帯に電話をくれ。」
男は名刺を差し出した。どうやら、組の若頭らしい。
「分かりました。」
「じゃあ、頼んだぞ。」
「はい。」
そう返事をすれば若頭は踵を返し帰っていく。少し離れた所に護衛の組員が居たらしい。わらわらと火葬場を出ていった。
「…怖ぇぇぇ。ヤクザは何度会っても慣れねぇわ。オーラが違ぇよ。」
「先輩たちの方が殺してると思うけど。」
「殺し屋は気配消した方がいいからな。」
「なるほど。」
「持っていけそう?固定紐使った方がいいかな?」
「だな。重いから、俺がこのまま持ってく。カバンとゴミお願い。」
「分かった。さて、行きますか。」
「うん。」
こうして、今回の仕事は始まった。
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