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カタンっと後部座席から小さな音がする。箱の中で骨壷が動いたんだろう。骨壷っていうのは、どうしてあんなに重いのか。骨だけなら、もう少し軽いハズなのに。そんな事を考えながら、車を走らせている。高速道路に乗ってから数時間経つ。雨雲と逆方向に進んでいるようで、降っていた雨も止んだ。そろそろ休憩を入れた方がいい。
「ハヤト。」
助手席に声をかけるが返事が無い。代わりにすうすうと寝息が聞こえる。昨夜はヤり過ぎてしまった。ハヤトが可愛くて、つい。同じ男に可愛いと思うのは変じゃないかと思っていた頃もあったが、可愛いものは可愛い。喘ぎ声も、潤んでいく瞳も、イった時に仰け反った首すじも。出来れば腕の中に閉じ込めておきたい。そんな願いは叶わないが。サービスエリアの看板を見つけて、ウィンカーを出す。それなりに混んでいる駐車場に車を停めた。
「ハヤト。」
「んんっ?」
「サービスエリア。休憩しよう。」
「んぁ。うん、わかったぁ。」
「先にトイレ行ってきていいか?」
「うん。まってるぅ。」
身を乗り出して、ハヤトのシートベルトを外してやるとコロンと横になる。こちらを向いた首の左側にトカゲのタトゥーが見える。本人は気にしてないが、外から見えないように上着を脱いでかけてやると、んんっと唸り声をあげて潜っていった。抱き締めたくなる衝動を抑えて、外に出て鍵をかける。『荷物』が載っている間は、片方づつしか車を離れられない。急いでトイレを済ませ、缶コーヒーと炭酸ジュースを買って車に戻る。鍵を開けて車に乗り込むと、ハヤトは同じ格好で寝ていた。
「ハヤト。トイレは?大丈夫か?」
「んー。トイレいくぅ。」
「コーヒーと炭酸どっちがいい?」
「たんさん。」
「これ飲んで目覚まして。食い物も買ってきて。まだ時間かかるから。」
「わかったぁ。」
俺の上着と炭酸ジュースを交換すると、蓋を開けて一気に飲んでいく。ゴクリゴクリと喉仏が動き、噛み付きたくなる。
「ぷっはぁっ!あー、生き返るぅ。」
「おはよう。」
「何見てんだよ。」
「かわいい。」
「ヒロさぁ、それヤメロって言ったよな?」
「ごめん。」
「ったく。なに食べる?」
「何でもいい。」
「それもヤメロよなぁ。」
「ハヤトが食べたいもの買ってきて。」
「…分かった。」
ガチャリとドアを開けて、ハヤトが建物に向かっていく。道中、親子連れとすれ違い、子供に手を振り返して親にそそくさと避けられている。ハヤトの首にトカゲが住み着いたのは、いつ頃なのか。中学までは居なかったが、俺が再開した時には、もう住んでいた。それに腰にも。何でタトゥーを入れたのか聞けば「かっこよかったから」と言われた。もう後戻りは出来ないけれど、後戻りする気も無いんだろうと今になれば思う。彼がまだ下っ端だった頃の事を思い出していると、ハヤトが戻ってくるのが見えた。両手が塞がっているようなので、内側からドアを開けてやる。
「サンキュー。あちち。はい。」
「何買ったんだ?」
「アメリカンドッグ。ほい、ケチャップ。」
そう言うと、ポケットからケチャップとマスタードの袋が出てくる。受け取ると、ハヤトも袋からアメリカンドッグを取り出し、ケチャップとマスタードをかけていく。俺もそれに習って袋を開け、マスタードを絞り出す。
「あ、やべっ。」
見ると、ハヤトの手にベトリとケチャップが落ちている。一瞬、血に見えて、思わず舐めとっていた。
「ああっ?!ヒロ、何やってんの?!」
「あ、ごめん。」
「ちょ、ティッシュ取ってよ。服にも垂れた。」
「椅子にもこぼれてる。」
「マジかよ。レンタカーじゃなくて良かったぁ。」
レンタカーなら、車内で飯を食わせたりしないけどな。そう思いながら、一旦、丸くて置きにくいアメリカンドッグをダッシュボードに乗せて、ウエットティッシュで拭いていく。椅子を拭いて、それからアメリカンドッグを受け取れば、ハヤトが自分の手と洋服を拭いていく。
「あー、染みになっちゃった。」
「目立たないから大丈夫。」
「そうかあ?まぁ、いっか。」
ゴミを捨てたハヤトが手を出すので、こぼさないように渡してやる。
「あー、びびった。ってか、ヒロ、さっきの何?」
「さっきの?」
「俺の手、舐めただろ?」
「ああ。」
「何だったの?」
「お前が怪我したかと思った。」
「…あ、そ。」
それ以上は、ハヤトも触れて来なかった。
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