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昼過ぎ、俺たちは目的の寺に到着した。俺が骨壷の入った箱を持ち、ハヤトの後を歩く。思ったより大きな寺で、この辺りの住民は皆この寺の檀家なのではないだろうか。立派な本堂の引き戸を開けて、ハヤトが大声を出す。
「こんにちわぁ、住職さん居らっしゃいますかぁ?」
「はいはーい!」
奥の方から女の人の声が聞こえてきて、バタバタと足音がする。数秒後現れたのは袈裟を来た住職らしき男の人だった。70代といった所か。頭は剃っているのか禿げているのか。優しそうな顔つきだ。
「お待たせしてすみません。住職の半田です。ささ、お上がり下さい。」
「失礼しまーす。」
ハヤトが靴を脱ぎ散らかして入っていく。手が塞がっている俺は、それを足先で直してから後に続く。住職が座布団を引いて待っていた。ハヤトの隣に座ると、女の人が麦茶を置いていく。
「あ、ありがとうございます!」
「いえいえ。では、奥におりますので。」
「うん。よろしく。」
夫婦なのだろうか。仲が良さそうだ。そんな様子を見ながら、麦茶をいただく。すごく冷えていて美味しかった。
「さて、それでどんな御用件でしょうか?お納骨ですか?」
「えっと『松本』さんのお使いで。」
「ああ!お聞きしております。それでは、そちらが松本先輩の…。」
「先輩?」
「ええ。私の先輩なんですよ。」
思わず、じろじろと観察してしまう。
「ああ。違います。中学の先輩で。幼なじみなんですよ。」
「ああ、そうなんすね。」
「せっかくですから、お線香でも上げてってください。」
ハヤトの方を見遣ると人好きしそうな顔で笑っている。俺には分かる。好奇心が抑えられない顔だ。抑える気も無いだろうけど。
「ぜひ。」
「では、お墓まで御案内します。お骨はこちらで持ちましょうか?」
首を横に振る。重いものをわざわざ年寄りに持たせる趣味は無い。
「大丈夫っす。こいつ力持ちなんで。」
「それは頼りになりますね。では、行きましょうか。外で少々お待ちいただけますか?」
「はーい。」
本堂を出て靴を履いていると、線香やら何やら持った住職が合流する。水場に寄って墓にかける水を汲み(流石に空気を読んだのかハヤトが運ぶことにしたらしい)、高台の方へ歩いていく。少し急な斜面を登り、『松本家』の墓に着く。住職が納骨室を開け、そこに骨壺を入れた。これで任務完了だ。元通りになった墓に住職とハヤトが順番に水をかけるのを敷地の外から見守る。
「松本さんって、どんな人だったんですか?」
真面目そうな顔をしているが、わくわくを隠しきれていない。
「そうですねぇ。まぁ、ご存知だと思いますが、中学時代も喧嘩は強かったですよ。それが良くも悪くも先輩をヤクザの世界に導いた訳なんですが。」
苦笑いする住職。俺は、真面目な顔をして立っているしか出来ない。
「先輩が東京で組長になったと聞いた時は驚きました。あんな事があって、足を洗ったのかと思ってましたから。」
「あんな事?」
「ええっと…。」
「誰にも言わないんで教えてください。」
でた、ハヤトの営業スマイル。それにしても『組長』の骨だったのか。俺たちみたいな運び屋に任せるような骨じゃないような…。
「先輩は、サエさんという方と結婚してたんです。結婚した時は、まだ二人とも10代でした。先輩は、ちょうどヤクザと不良の間みたいな、半グレって言うんでしたっけ。僕も先輩もサエちゃんも幼なじみなんですよ。先輩とサエちゃんが同級で僕はひとつ下でした。」
「そうだったんですね。」
「はい。それで、先輩達がまだ20になったばかりの頃、サエさんが亡くなったんです。」
「え?」
「殺されたんじゃないかって噂でした。警察の人も動いていて。」
「そ、そうなんですね。」
「幼なじみで家族同士も仲良かったですし先輩の強い希望もあって、松本家のお墓に、このお墓にサエさんも眠ってるんです。それから、先輩は東京に出て行ってそれっきり。風の噂で組長になったって聞きました。それですごく驚いたんです。」
「そうだったんですか。初めて聞きました。」
「そうですか。…先輩、サエさんのお葬式の時、泣きたいのに泣けないみたいな辛そうな顔してたのが忘れられなくて。こうして同じお墓に入れただけでも幸せなのかもしれないですね。」
そう言って、住職は目元の涙を拭って優しい顔でお墓を見つめていた。
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