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辺りはすっかり夜になり、行きつけのスーパーも店仕舞いした時間。高速を降りた俺たちは仕事の報酬を貰いにヤクザの事務所を訪れた。下っ端に連れていかれた執務室に、朝火葬場で出会った若頭が座っていた。
「よぉ。お疲れ様。」
「うっす。」
「無事に届けたか?」
「はい。納骨までつつがなく。」
「そりゃ、よかった。まぁ、座れ。」
「失礼します。」
応接セットのソファに腰掛ける。警戒して座ろうとしないヒロに目配せして隣に座らせる。カチャンと音がして、目の前に座った若頭がタバコをふかし始める。
「それで、いくらだ。相場は聞いたが、遠距離だしな。上乗せしてもいいぞ。」
「いえ、お聞きになった値段で大丈夫です。その代わり聞きたい事が。」
「荷物のことか?」
「はい。俺達が運んで良かったのかな?と思いまして。」
隣のヒロが身構えたのが分かる。仕方ないじゃん、気になるんだもん。若頭は部下を一人残して人払いをすると、吸っていた煙草を揉み消す。
「で?どこまで聞いた?」
「お骨の方の話を少し。」
「ああ。あれはうちの先代の骨だ。俺も随分、世話になった。松本の話も聞いたか?」
「はい。サエさんの話を。」
「ああ、そうか。」
若頭は上を向いて息を吐き出す。
「先代は、サエさんの事がずっと忘れられなかった。内縁の妻は居たが、本妻は作らなかったのはサエさんが居たからだ。うちの組は歴代の組長が同じ墓に入るのが決まりなんだ。一種の宗教みたいな考えの奴も多いしな。だが、俺は先代はサエさんと同じお墓に祀るべきだと思った。俺のわがままだ。」
「へぇ。」
「じゃあ、その墓には何を入れたんだ?空の骨壷か?」
突然、横からヒロの声がして思わず振り向く。ヒロは真っ直ぐ若頭を見ていた。その顔は無表情と言った感じで、特段、興味がある訳でも無さそうなのに。何より俺以外の人と話すヒロを久しぶりに見た。
「馬鹿言うな。火葬場は骨壷に骨を詰めるとこなんだぞ。そこら辺で死んだやつから体格の似てる奴を変わりに焼いて詰めた。歴代の組長と同じ墓なんて、可哀想な事をしたな。」
そう言うと、若頭はニヤリと笑い、懐から財布を出すと万札を8枚机に置いた。
「さぁ、これで仕舞いだ。高速代も付けとくよ。おかげで気分良く寝れそうだ。」
「じゃあ。」
金を受け取り、一枚返す。
「俺たち二人から香典っす。墓参り行ったらよろしく伝えといてください。」
「ははっ!分かった。仏前に供えとくよ。」
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