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「ねぇ。」
「なに?」
「…今日の晩御飯なに?」
「焼きそばでいいか?賞味期限近い。」
「うん。」
ヤクザの事務所を後にして、車は見慣れた道に戻ってくる。あと10分もすれば家だ。
「ねぇ。アイス買ってかない?」
「スーパー閉まってるだろ。」
「たまにはコンビニで買おうぜ。」
「…分かった。」
家から5分のコンビニ、ニコニコマート。駐車場に車を止めて中に入ると、馴染みの店員が会釈してくる。手を上げて挨拶を返して、アイスコーナーへ向かう。カゴを持ったヒロが後ろから付いて来て、追い越してドリンクコーナーへ向かった。
「ヒロ?」
「酒。ハヤトも何か飲む?」
「いいの?」
「安いやつ1本な。」
「うぃ〜。」
ニコマブランドの安いレモンサワーを選んでカゴに入れる。ヒロが入れたのは、度数の高いドライサワー。いつも一仕事終えると、二人で食料を買って帰る。今日はいつものスーパーではなくコンビニだけど。やっと帰ってきた。そんな気がする。
「あ!新発売の味!おれ、コレにする!ヒロは?」
「バニラでいい。」
「こっちの高いのにすれば?」
「…いつもの。」
「ハイハイ。」
アイスを二つカゴに入れると、レジに並ぶ。まだ電車はギリギリ動いている時間なので、会社帰り飲み会帰りの客が数人。住宅街の外れのコンビニで、思い思いの買い物を済ませて家へと帰っていく。
「ハヤト?」
「うん?」
「会計終わったぞ。帰ろう。」
「ああ、うん。」
ドアの開閉をボーッと眺めている間に、会計が終わっていた。思ったより疲れている。酒もアイスも買ったけど、それよりもう…。
「…ねむい。」
「家に着いてから寝てくれ。運べない。」
「俺だって運ばれたくないよ。」
「帰ったら寝るか?」
「うん。」
「風呂はどうする。シャワーでいいか?」
「…一旦、ソファーで寝る。」
「ダメだ。どうせ起きないだろ。風邪引く。」
「オカンかよ!」
エンジンがかかって、車が出発する。我が家まで、あと少し。
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ピピピピピッっと毎日12時になるアラームが鳴る。寝過ぎないようにと、ヒロが設定したが眠かったら二度寝すればいい。だが、今日は台所からジュウジュウと音がして起きる事にした。
「ぉはょぅ。」
「おはよう。顔洗ってこい。」
「ん。」
言われた通り、洗面所に向かう。顔を洗って戻ると、焼きそばの乗った皿がドンっとテーブルに置かれる所だった。12時のアラームで起きる事を見越して、調理を始めたに違いない。
「ありがと。」
「座ってろ。」
「ヒロは本当にすごいなぁ。」
「なんだ、急に。」
「俺の後にシャワー入って俺より後に寝たのに、俺より先に起きてんだぜ?凄すぎるよ。俺はヒロが寝たのも起きたのも気が付かなかったのに。」
「疲れてたんだろ。」
「それはヒロもじゃん。」
「俺は睡眠時間、短くて大丈夫なんだよ。それより早く食え。冷める。」
「うん。」
「酒は?飲むか?」
「昼から?いいねぇ。飲んじゃお!」
冷蔵庫から出したキンキンのサワーがコップと一緒に置かれる。
「え?どうしたの?」
「なにが?」
「いや、コップ。珍しいなって。」
「いつもお茶飲んでるコップだろ。洗い物は変わんない。」
「それもそっか。では、遠慮なく。」
とぷとぷとコップに酒を注ぐ。なみなみと注いだコップを、ヒロのちょうど半量注がれたコップと合わせる。
「かんぱぁい!」「乾杯。」
ごくごくと飲んで、箸を手に取る。
「いただきます!」
「いただきます。」
スッキリしたレモンサワーに濃いソースの焼きそばが良く合う。野菜もたっぷり目なのが玉に瑕だけども。
「野菜も食えよ?」
「はいはい。そういえば今日も仕事休んだの?」
「運んだ次の日は休むって決めてる。」
「なんで?」
「集中力が落ちる。」
「へぇ〜。」
「それに。」
「それに?」
顔を上げると首の後ろを掴まれてキスされた。食卓の上でディープキス始めたもんだから、ヨダレが落ちないか気になるし、焼きそばの味に酒の味が混ざってクラクラしてくる。ようやく解放された時には酸欠で、椅子に崩れ落ちた。
「なにすんだよっ!」
「こういう事が出来ない。」
真剣な眼で見つめられて、腹の奥が疼いた。慌てて目線を焼きそばに落とす。
「ば、ばっかじゃねぇの?!」
「ハヤトは、したくないのか?」
「そっ!」
『そんなこと言えるか、バカっ!!』心の中で盛大につっこむ。顔が熱い。もうヤダ、こいつなんなの?真っ直ぐ見つめられると、もう降参するしかない。
「…分かった。飯食ったらシャワー入る。」
「一緒に入るか?」
「ダメ!絶対ダメ!!」
酒も入った上に逆上せたら、いくらなんでもヤバすぎる!!
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