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episode3 できる看護師
俺の専門は腫瘍外科。
腫瘍外科とは、主に癌などの悪性新生物を治療する病棟だ。
手術だけでなく、放射線治療や抗癌剤など様々な最先端の治療が行われている。
うちの家系は代々医者で、俺も生まれた瞬間から将来医者になることが決まっていた。
学校だけでなく、兄弟の中でも優劣をつけられて……常に成績は上位をとらなければならなかったし、大人の顔色ばかりを伺って生きてきた。
今だって、大学病院の中で繰り広げられる、全く意味のない権力争いに巻き込まれる日々……おかげで、どんどん性格がひん曲がっていった。
俺が心腫瘍科病棟のナースステーションに入った瞬間、今までガールズトークで盛り上がっていた看護師達の無駄話が一瞬で止み、その場が静寂に包まれる。
そして大して用事もないだろうに、蜂の子を散らしたかのように一斉に看護師がいなくなるのだ。
ただ1人を除いて……。
「月居先生、またオペナース泣かせたんですって?」
「あ?だってあの子、何回オペに立ち会っても一向に機械出し(※手術中、医師のタイミングを見計らい、今必要と思われる医療器具を手渡すこと)が上達しねぇんだもん」
「そんな事言ってたら、先生のオペで機械出しできる看護師が俺しかいなくなります」
「ならお前が毎回来ればいいじゃん?」
「俺は、オペナースじゃないんです。でもみんな先生を怖がって誰も行ける看護師がいないから、仕方なく俺に声がかかるんですよ。俺だって主任に昇格したから忙しいんです」
どんなに他のスタッフが俺を煙たがっても、日下部だけは違った。いつも俺の傍にいてくれる。
こいつだけはいくら文句を言っても、俺を受け止めてくれるんだ。
そして、日下部は10月付でこんなにも若いのに、腫瘍外科病棟の主任に抜擢された。いわゆる、できる看護師だ。
「はい、先生。これ今日で処方が終わる患者さんですから、処方をお願いします。あと検査結果もありますから、全部見てコメントお願いしますね」
「はぁ?なんでこんなにあるんだよ!」
「みんな先生が怖いからって、自分が担当してる患者の処方を、俺からお願いしてほしいって頼まれたんです。だからこんなに溜まってしまった……全ては話しかけにくい先生が悪いんだと思います」
飄々と話し続ける日下部を軽く睨みつけてから、渋々仕事に取りかかる。
「終わるまで待ってますから頑張って」
「うるさい」
「ふふっ。じゃあ、終わったらご褒美にキスしてあげましょうか?」
「……ん……?」
「先生、俺とのキス……気持ちよかったみたいだから」
「お前、聞いてたのか……」
「あ、ナースコールだ。ちょっと行ってきますね」
俺は、再び頬が熱くなるのを感じて机に突っ伏す。
心臓がバクバクいってうるさくて仕方ない。思わず自分で脈をとって、不整脈がないか確認してしまった。
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