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episode4 面白くない
「日下部、処方終わったぞ。日下部……」
ようやく日下部から押し付けられた仕事が終わった俺は、病棟内にいるであろう日下部の姿を探した。
いつの間にか辺りは真っ暗で、日勤のスタッフは帰ってしまったらしい。少ない人数の看護師達が病棟内を忙しなく走り回っている。
時計を見ると20時を回っているから、そろそろ日下部も帰る時間だ。
病棟の中を探して回れば、腫瘍外科病棟の師長が話しかけてきた。スタッフに欠員が出たらしいから、珍しく夜勤に入ったのだろうか。
「月居先生、まだ帰られてなかったんですか?」
「日下部主任を探していて……」
「あぁ、日下部主任なら突き当たりの廊下で藤野 先生と話してましたよ?」
「藤野先生……?」
「あら、月居先生は藤野先生をご存知でない?最近この病院にいらっしゃった女医さんです。どうやらうちの日下部を気に入ったらしく、時々会いにくるんですよ。藤野先生もまだお若いから、日下部主任みたいに容姿が整った子が好きなんですね」
「へぇ……」
俺に全く臆することなく話しかけてくる師長の言葉で、頭の中が完全にフリーズしてしまった。
だって、日下部が他の奴と仲良くするなんて面白くない。
俺は師長に軽く会釈をしてから、日下部がいるであろう場所に向かった。
1番突き当たりの廊下……そこは昼間でも薄暗くて、あまり人が通らない場所。
日下部は師長が言っていた通り、そこで俺の知らない女と楽しそうに話していた。その光景を見た瞬間、髪の毛が逆立つんじゃないかというくらいの怒りを感じて、ゾワゾワッと鳥肌がたっていく。
「やだぁ、日下部君ったらぁ」
藤野という女医が甘ったるい声を出しながら、日下部の腕を触る。必要以上に日下部に触れたがる雌猫を見ているだけで、ムカムカしてきた。
我慢できなくなった俺は、わざと2人の間に割って入った。
「おい、日下部。言われた仕事、全部やっといたぞ」
「あ、先生ありがとうございます」
無邪気な笑顔を向けられた瞬間、今度は胸がズキンと痛む。
なんだこれ……。
吐き気を覚えた俺は、日下部に背を向けた。自分が望んでここに来たはずなのに、来たことを強く後悔する。
こんなとこ、見たくなかった……。
「あの、もしかして腫瘍外科の月居先生ですか?私、神経外科の藤野と……」
「俺は、若い男性看護師をこんな所に連れ込むような女医に、興味なんてありません」
その言葉を聞いた日下部と雌猫の顔が凍りついていく。重たい空気がその場を流れていった。
「日下部、お前にはガッカリしたよ」
「月居先生……」
傷付いたような日下部の顔を見ていられなくなった俺は、逃げるようにその場を後にする。
「ガッカリってなんだよ……俺は、日下部に何をガッカリしたんだよ……」
頭の中がグチャグチャになって、無性にイライラする。
「だって……日下部は、俺のことが好きなんじゃないのかよ……」
火照った体を冷やしたくて非常口からそっと外へ出れば、冷たい風が優しく髪を揺らしていく。
ただイライラして、苦しくて……泣きたくなった。
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