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episode7 好きかもしれない

 俺がまた研修医だった頃、同じ大学の医学部に通っていた瀧澤と、手術室で再開した。  手術衣に全身を包まれていた俺によく気付いたな……って思うくらいで、取り分けそれ以外は何も感じなかった。  なのに、その日から瀧澤の猛烈なアタックを受けた。  見た目からして遊んでそうな瀧澤に、最初は警戒心を剥き出しにしてたけど、距離が近くなれば気付いてしまった。  案外真面目な奴なんだって。そこからは、どんどん瀧澤に惹かれていって……。いつの間にかあいつに抱かれていて、恋人になっていた。  お互い医師という激務をこなしながら、できるだけ一緒にいる時間を作って。寝る間を惜しんでまで傍にいたかった。  そんな関係も、1年たった頃呆気なく終わりを迎える。  瀧澤が色んな病棟の看護師と浮気をしてたのだ。ざっと見積っても4人くらい。酷い裏切りだってあの時はめちゃくちゃ傷付いた。そんな俺に瀧澤は、 「お前って、案外真面目なんだな?もっと遊んでるかと思った」  ってびっくりしていた。  そう。俺は真面目なんだ。こんな見た目してても一途だし。  だから、許して欲しいって頭を下げる瀧澤とヨリを戻すことなんてできなかった。  あの頃は身も心もボロボロだった。心の底から好きだった瀧澤を失った衝撃はあまりにも大きくて……心にポッカリ穴が開いてしまったようで。  そんな時に、看護学生として日下部が腫瘍外科病棟へ実習に来たのだ。  ナースマンも最近増えてはきたけど、やっぱり目立ちはする。特に、日下部は背も高かったたし見た目も良かったから。  瞬く間に、病棟の看護師達のテンションが上がったのを感じる。  優しくて何事にも一生懸命な日下部は、患者からも好かれていた。  そして、その真面目さを買われてか入職して数年で、主任にまで昇進したのだった。  俺は日下部が可愛くて、時々ちょっかいを出すようになる。  嬉しそうに笑う日下部の頭には三角の耳が、尻にはフワフワのシッポが見えるようだった。シッポをフリフリと振りながら……。 「月居先生、大好きです」  そう恥ずかしそうに笑う日下部が、俺は気になって仕方ない。 「俺、月居先生と一緒に働きたくて腫瘍外科病棟を希望したんです」 「……そっか……」  もう恋なんて懲り懲りなのに……したくないのに……。  あの立派な犬が、こんなに懐くとは思わなかったのだ。  俺は、日下部の大きな手も甘い唇も……好きなのかもしれない。  そんな飼い犬が、今突然現れた雌猫に連れ去られそうになっている。犬のくせに猫になんかシッポを振りやがって……面白くなくて胃もムカムカする。  でも……俺は素直に、 「行かないで」  って言えなかった。  言えるはずなんてなかった。

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